「どうしてぼくは捨てられたの?」〜真実告知〜

小さな頭の中がはてなマークで埋め尽くされる

 特別養子縁組を通して家族になる中で、最も重要なことのひとつが「真実告知」だと言っても過言ではないでしょう。「真実告知」とは、養親が特別養子縁組で家族に迎え入れた子どもに、その子の出生に関する事実を伝えることです。

 私は生物学的つながりのある両親の下で生まれ育ちました。ですから自分の生まれた頃の話を知りたければ、両親や祖父母や親戚に聞くことができました(今でも聞きたければ聞けます)。自分が特に知りたいとは思わなくても、「あんたが生まれた時は〇〇でねぇ……」等、会話の流れから私が生まれた頃の話になることもあったし、親戚の集まりなどでその話題が出ることもあり、自分の生い立ちを自然に知ることができる環境で育ちました。

 もし、そのような環境で育たなかった場合、生活する中でどんなことが起こり、それが起きた時にどんな気持ちになるかを想像してみてください。

 まず、保育園や幼稚園に通い始めると、先生が園児にする話や、お友達との会話に「お父さん」、「お母さん」、「お家」など「家庭に関連する言葉(単語)」が頻繁に出てくるようになります。近所の公園で遊んでいる時にも、外出先や買い物をしている時 などにも、その言葉が頻繁に聞こえてくるので、幼い子どもでも何となく「自分とお友達は置かれた環境が違う」ということに気づきます。

 すると当然、様々な疑問が生まれます。

「僕(私)のお父さんとお母さんは、どこにいるの?」
 僕(私)はどこから来たの?」
「僕(私)には家族がいないの?」

小さな頭の中が、はてなマークで埋め尽くされていくのです。

「どうしてぼくは捨てられたの……?」

 太郎くんとの生活を始めてから2年ほど過ぎたある日のこと。いつものように太郎くんをお風呂に入れ終わった時、何の前触れもなく突然、太郎くんが私に質問しました。

 「ねえ、どうしてぼくは捨てられたの……?」

 それを聞いた途端、私は瞬時に全神経を太郎くんに集中させました。いつか必ず太郎くんは自分の出自について聞いてくるだろうと心していた瞬間がやってきた——私の中にも緊張が走りました。

 当の太郎くんは、いつになく体をクネクネさせながら、落ち着きのない様子を見せていました。きっと私からどんな答えが返ってくるのか予想ができず、どう振舞ってよいのか分からなかったのでしょう。

 太郎くんを家族に迎えた時から、もし生い立ちに関して質問されたら「うそ隠しなく、年齢相応に本人が納得いくまで答えること」は決めていました。心の中では、その時が来たら、そうしようと準備していたつもりでしたが、この突然の展開に私はたじろぎ、「ああ、何て答えよう……」と焦りました。でも、私が焦ってはいけない、まずは落ち着け——と瞬時に言い聞かせ、自分の脳をこれほど速く回転をさせたことがないと言えるほどの速さで自分が言うべきことを決断しました。そして、目線が同じ高さになるようにしゃがんで太郎くんを抱き寄せ、彼の目を見つめました。

あなたは捨てられたのではありません

 太郎くんと目を合わせた時、「決して目をそらしてはいけない」と思ったことを今でもはっきりと覚えています。私がどれほど真剣に言っているのかを伝えねばならないと思ったからです。

 私は太郎くんの目を見ながら、こう言いました。

 「太郎くん、あなたを産んだ女の人は、その時は結婚していなくて、お仕事もしていなかったので、あなたと一緒に住むおうちがなくて、あなたを育てることができなかったの。それでね、あなたと一緒に〇〇のおうち(児童相談所の呼び名)に行って、自分に代わってあなたのことを育ててくださいとお願いしたの。それからしばらくして、私とジョンさん(夫のこと)が〇〇のおうちに行って、家族を必要としている子どもと家族になりたいですって言ったら、あなたを紹介されたのよ」

 太郎くんは私の目を見て黙って聞いていました。私は太郎くんに笑いかけて、こう続けました。

 「あなたを産んだ女の人は、あなたに幸せになって欲しかったの。自分はあなたを幸せに出来ないと思ったから、自分に代わってあなたを幸せに出来る人にあなたのことをお願いしたのよ。だから、あなたは捨てられたのではありません。私たちが託されたの。私たちは太郎くんが大好きよ」

 と言って、太郎くんを思いきり抱きしめました。抱きしめられた太郎くんは、はにかんだ表情を浮かべていましたが、私の腕から抜けると何事もなかったかのように、「おもちゃ、取ってくる」と言って、自分の部屋へ走って行きました。その後ろ姿を見ながら、私は今まで以上に太郎くんのことを愛おしく感じたことを鮮明に覚えています。

 その愛おしさと同時に、まだ年齢が二桁にもいっていない子どもが自分のことを「捨てられた」と表現し、その理由を知りたがっているという現実を目の当たりにして胸が締め付けられました。それは私がそれまで生きてきた中で感じた最も強烈な痛みでした。

真実告知をした後で……

 太郎くんが我が家に来た時の年齢は5歳でした。ですから太郎くんは児童養護施設の職員から「私たち夫婦が自分とは血縁がない」と説明されていて、我が家に来る前からそれを知っていました。だから私たち夫婦は、わざわざこちらから真実告知をするより、本人が知りたいと思った時に聞いてくるだろうと考えていたのです。

 ですから、お風呂の後に太郎くんが出目について聞いてくれたとき、私は「真実告知が終わった」ということに安堵して、もうこのことを心配する必要なないと思いました。

 しかし、それから5年ほど経って、それは突然やってきました。

 太郎くんが夫に自分の出自に関する質問をしたのです。内容は、「どのようにして、自分が私と夫のもとに来ることになったのか」でした。

 これまでに同じ質問をされて、それに正直に答えてきたので、太郎くんはその答えを知っています。でも、同じ質問をなん度も投げてくる——だから彼は私たちを試しているのかなと思います。

 そんな中で、私と夫が太郎くんに毎回伝えていることは、なんだと思いますか? それは……。

 「何があっても私たちはあなたの全てを受け入れ、あなたを決して見捨てない」

 この言葉を私たちから聞くと、その度に太郎くんは満面の笑顔を見せ、その笑顔を見た私たちにも満面の笑みが浮かびます。

 我が家の特別養子縁組ものがたりはまだまだ続きます。お楽しみに!

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