特別養子縁組の申し立て その1

太郎くんを法的に家族として迎えるために

 この連載を読んでくださっている方の中には、これから特別養子縁組を行うことを考えている方もいらっしゃると思います。そこで今回は特別養子縁組の申し立てについてお話しようと思います。

 太郎くんが我が家にやって来てから1年と数カ月が過ぎた頃、児童相談所の担当者から特別養子縁組の申請手続きについての説明を受けました。

 「1年以上も一緒に暮らしていたのに、なぜ申請をしなかったの?」と疑問に思う方もいるかも知れませんが、結婚や出産によって家族が増えるときとは異なり、特別養子縁組は「その子どもと養親との相性が合うか」「この養親は本当にこの子を育てられるのか」等、申請する前にきちんと確かめねばならないことがたくさんあるからです。民法にも「縁組成立のためには、養親となる方が養子となるお子さんを6カ月以上監護している実績が必要」とあり、縁組成立前に一緒に暮らして、その監護状況等を考慮して家庭裁判所が特別養子縁組の成立を決定するのです。

 ですから児童相談所から申請手続きの説明を受けたとき、私は「とうとう、この時がやってきた」と少し緊張したと共に、「私と夫は本当に太郎くんの“お父さんとお母さん”になっていいのだろうか?」などの様々な気持ちが入り混じったことを今でも鮮明に覚えています。

何度も読み返した太郎くんの戸籍謄本

 特別養子縁組の申し立て(申請)は、養親の住所地を管轄する家庭裁判所宛て行います。大まかな流れは、まず申請のための書類を準備し、それらの書類を提出後、家庭裁判所の調査官による家庭訪問があり、その後に審判が下ります。

 私たち夫婦がこの申請をした頃は、必要な書類は以下でした。

・特別養子適格の確認の申立て書(国が指定する書式)
・特別養子縁組成立の申立て書(国が指定する書式)
・養子となる者の戸籍謄本
・養子となる者の実父母の戸籍謄本
・養親となる者の戸籍謄本
・収入証紙など

 養子となる者(太郎くん)の戸籍謄本と、太郎くんの実父母の戸籍謄本は、児童相談所が取得して私たちに郵送してくれました。太郎くんの戸籍謄本が入った封書を手にした時は、とても緊張しながら封筒を開けました。戸籍謄本を開いて最初に目についたのが、大きな「公的」の文字——。それは、その戸籍謄本には掲載されていない者が「公的」な理由でその謄本を取得したことを意味するものでした。

 その戸籍謄本を私は一字一句、食い入るように読み、何度もそれを読み返しました。

 太郎くんがこの戸籍から離れなければならない理由は、実母さんにとっては望まない妊娠だったから——。けれども出産して、出生届を出した実母さんは、その時どんな思いだったのだろう。今になって考えが変わって、やっぱり自分が引き取りますと言ってくることもありえるのではないか——? その日は布団に入ってからも様々なことが頭の中をよぎり、なかなか寝付けませんでした。

弁護士でも裁判官でもない私が法律を翻訳?

 申請に必要なすべての書類を揃えて郵送すると、約1週間後に早速、裁判所から1通の手紙が届きました。でも、その内容は審査が通ったという連絡ではなく、養父(私の夫)が外国籍者のため、「日本に合法的に滞在していることを証明するために住民票を提出してください」だったので、役所に行って夫の住民票を取得し、郵送しました。

 さらに1週間後、今度は裁判所から電話がありました。「養父(私の夫)がアメリカ国籍者」のため、追加情報の提出が必要になったのです。裁判所の説明は、「養子になる者(太郎くん)の親権が認められた場合、アメリカ国籍者が日本で未成年者の親権を持つ者になるため、日本とアメリカ両国の法律が適用になる。しかしアメリカは州によって法律が異なるため、これまでに住んだ州をすべて列挙し、その各州とどのような繋がりがあるのかを書き出すように」とのことでした。それを提出すれば、裁判所が「そこからひとつの州を選び、その州の法律を適用する」と言うので、すぐに夫の居住歴を確認して、翌日に裁判所に連絡すると、「どの州になるか決定したら、また連絡するが、州が決まったら、その州の法律を日本語に訳す必要がある」と言われました。

 弁護士でも裁判官でもない私が「アメリカの州法を翻訳するなんて……」と、絶望的な気持ちになりましたが、申請に必要だと言われたらやるしかありません。事前にいくつかの州法をネットで検索してみましたが、法律の知識がない私にはチンプンカンプン。しかも文字量が気が遠くなるほど膨大で泣きそうになりました。

 とはいえ、来る日も来る日も裁判所からの連絡はなく、「私たちのことは忘れられちゃったのかな……」と気が気でない日々を送っていました。数カ月後にようやく裁判所から「この州を適応する」と連絡があり、それから数週間の間、ほぼ毎晩、該当州法の翻訳作業を行いました。30ページ以上もある州法の翻訳ですから、ほぼ毎日、太郎くんを寝かしつけた後に夫と二人三脚で作業。夫が法律を1行ずつ読み、意味が変わらない範囲で簡単な英語に言い換え、それを私が日本語に訳しました。アメリカと日本の法律は、特別養子縁組の対象年齢などいくつか異なる内容がありましたが、それに関しては日本の法律に適用される箇所のみを訳すようにと裁判所から指示がありました。

 翻訳作業を終えて無事に提出した時には、「これでもか」というほど疲労困憊……。でも、もしも「提出された内容では受け入れられません」などと言われて、手続きが永遠に終わらなかったらどうしよう……などと不安が頭をよぎる日々を過ごしていました。それからどうなったか……。この続きは次回に。

 我が家の特別養子縁組ものがたりはまだまだ続きます。お楽しみに!

特別養子縁組と里親の情報
おすすめの記事