通訳って、難しい!

英語を「読む・書く」と「話す・聞く」は別物

 こんにちは、ランサムはなです。前回もお話ししましたが、私は昨年の11月から日系の某大企業で社内通訳者としてのセカンドキャリアをスタートしました。入社から4カ月目に入り、ようやく少し振り返る余裕ができてきたので、今回は通訳者に挑戦して、まず何が大変だったかを書いてみたいと思います。

 頭ではわかっていたものの、実際に通訳の仕事を始めてから改めて痛感したのは、「翻訳業と通訳業は全然違う」ということでした。

 翻訳業はひたすら文字と向き合い、辞書を引き、意味を考え、時間をかけて訳語と文章構成を捻り出します。いわば「読み書き」のみの仕事で誰とも話す必要はありません。文章を「熟成」させる必要があるため、時間もかかります。ところが通訳業には、そんな時間の余裕はありません。相手の言うことを聞いて、片っ端から別の言語でそれを訳出していきます。瞬時に訳すことが求められるので、辞書をいちいち引いている時間もありません。わかってもわからなくても、機転を利かせて何か言わなければ話し合いが先に進まないので、通訳には沈黙は禁物。翻訳と通訳をスポーツにたとえるなら「長距離走」と「短距離走」ほども違いがあります。

 さらに私には、幼少期にてんかんを患い、人が言っていることを完全に理解するのにワンテンポ遅れが出るというハンデがありました。実際、出だしが聞き取れないために聞き返さなければいけないことも多く、「やはり無理かも……」という思いが何度も頭をよぎりましたが、「無理かどうかはお客様が決めること!」と気持ちを奮い立たせて、毎日会社へ向かいました。

現場の英語も日本語も全然聞き取れない!

 入社して最初の仕事は工場での朝会を同時通訳するというものでした。ところが話し手が何を言っているのか全く聞き取れないのです。英語ネイティブならまだしも、スペイン語、ベトナム語、フランス語、アラビア語などのアクセントが強い人の場合、さらにわからず、唯一聞き取れたのは、「no issues(問題ありません)」と「Any questions?(質問ありますか?)」という、子どもでもわかりそうな表現だけ。それ以外の部分は、話し手の横に呆然と立ち尽くし、少しだけ聞き取れた数字や言葉の断片を意味もわからずに吐き出すしかありませんでした。本当に情けなかったです。

 騒音の大きい工場現場で、マイクとスピーカーがエコーしているのも聞き取りにくい理由の一因でしたが、それにしても予想以上の難易度。「この状況が改善されなかったら、確実に自分はクビになる」と危機感を覚えました。

 その他に苦労したのは、現地の作業員の日本語の発音と業界用語です。製造業で「Gemba(現場)」という言葉が英語として使われていることを初めて知りましたが、それ以上に仰天したのが、これを「ジェンバ」と発音している人がいたことです。確かに「ge」で始まる英語は「ジェネレーション」など「ジェ」と発音することが多いですが、日本人には「現場=ゲンバ」という固定観念があるので、「ジェンバ」という変化球が来ることは全く想定外。何度「ジェンバ」と言われても「???」と意味不明でしたが、誰かがボードに「Gemba」と書いて「ジェンバ」と読んでいるのを見て、「ジェンバ=現場のことか!」とようやく繋がった時は、頭に雷が落ちたような衝撃を受けました。

 業界用語も難解です。一度「ショウジン」という言葉が使われているのを聞いたので、「精進」だと解釈して「頑張りが足りない」などと英語に訳したところ、実際は「省人」、つまり人員削減という意味だと後でわかって、顔から火が出そうになったこともありました。

 数え上げればきりがないほど恥をかきまくりましたが、私を解雇せず、辛抱強くいろいろなチャンスをくださる会社には本当に感謝しています。

実際に仕事することが一番の学びに

 いきなり現場に投げ込まれて恥はたくさんかきましたが、「学習者」としてではなく、最初から「プロの通訳者」として仕事をさせていただけて、とても勉強になっています。

 29年前に翻訳者として訓練を受けた時から感じていましたが、本や講座で教材を学習するよりも、現場で実際に仕事を経験する方が、はるかに短期間で経験値がつきます。教材というのは、どんなに優れていても学習者の都合を優先させるため、現実でしか遭遇しない難しさやノイズが人為的に除去されています。仕事場では容赦なく想定外の事態に対処せざるを得ないので、驚くことは多くても、それを繰り返していくうちに臨機応変に対応する力や度胸が身についてきます。

 100回のリハーサルよりも1回の本番。「実際の仕事に勝る教材はなし」とおっしゃっていた先輩がいましたが、本当にその通りだと思います。

ランサムはなのワンポイント英語レッスン

「人生はリハーサルではない」は「Life is not a dress rehearsal」
人生は一回きり。すべてがぶっつけ本番で、舞台稽古ではない、という言葉は、あちこちで聞いたことがあるような気がしますが、OpenAI社のCEO、サム・アルトマン氏の言葉ということになっています。「Make it count(意味のあるものにしよう)」と続くのですが、まずは行動してみよう、という気持ちにさせてくれる言葉です。

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看板・標識の英語表現 ランサムはな

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