
【カリフォルニアの隠れ家バー便り】
世界中からチャンスを求めて移住者がやってくる米カリフォルニア。人種の坩堝の中で生きる様々な人たちが、ふらりと訪れる小さなバーで働く日本人バーテンダーが、カウンター越しに耳にしたリアルなアメリカをつぶやきます。
宗教では許されないことをした妹を想う母
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子どもの頃は敬虔なカトリック教徒のお母様の影響で教会に通う家庭で育ったものの、高校生になった頃から信仰心が薄れて、今では聖書を開くことは滅多にないというイリアナさん(33歳、仮名)。それほど信仰心がないイリアナさんが、とても稀な経験をしたという話を聞かせてくれました。二十歳で自死を選んだ妹さんから10年後にメッセージが届いたというお話です。
イリアナさんのご両親はエルサルバドル出身のカトリック教徒ですが、イリアナさん自身はそれほど信仰心もなく、日本人に多くみられるような無宗教っぽい方。日系アメリカ人と結婚しているからでしょうが、アメリカに住みながらもお盆やお正月など日本の伝統的な風習を守り、日本文化を大切にしながら生活しているとよく話していらっしゃいます。
そんなイリアナさんは10年前、妹のエミリーさん(仮名)を亡くしました。自死を選んだエミリーさんは当時、二十歳。どの宗教でも自死はいけないことだと教えていますが、なかでも自死は罪であり天国に行けないと教えるカトリックを信仰するお母様は、エミリーさんが亡くなって以来ずっと悲しい思いを抱えたまま暗い気持ちで生きているそうです。イリアナさんが「神様はそんな意地悪なことしないから、エミリーはきっと天国にいると思うよ」と慰めても、お母様の気が晴れることはなく10年間が過ぎたある日、とても不思議な出来事が起きたそうです。
「家族にメッセージを伝えたい」という突然の電話
エミリーさんが生きていた頃、仲が良かったマリアさん(仮名)という友達がいました。そのマリアさんから先日、イリアナさんに突然電話があり、こう言われたそうです。
「私自身も信じられなかったので、私が今からいうことを聞いても信じられないでしょうが、私とエミリーの同級生だった子が、ある使者を通じてあなたの家族にエミリーからメッセージがあるという伝言を受けたそうです。どうしましょうか?」
イリアナさんは「はあ?」と思いながらも、「とにかく連絡ありがとう。詳しい話を聞かせて」とマリアさんを促して説明を聞いたそうです。
マリアさんによると、数日前に小学校の同窓会があり、そこで久しぶりにあった元同級生の男性が、それほど仲が良かった覚えもないのに「おい、お前が仲良かった友達で自死した子がいたよな?」と話しかけてきたそうです。
そんな質問をされて驚くマリアさんに、彼は自分の体験を話し始めました。
「実はここ数カ月、いろいろあって俺はサイキック(占い師)に会っているんだ。そのサイキックが俺に『あなた、自死した女の子を知っているでしょう? その人が家族にどうしても伝えたいことがある』って毎回、俺に会うたびに言うんだよ。でも俺の知り合いで自死した人はいない。だけど今ここでお前の顔を見て、そういえばお前の友達に自死した子がいた!って思い出したんだ」
それを聞いたマリアさんは、話の内容に驚いただけでなく、亡くなったエミリーさんの両親が自分と同じカトリック教徒であることも覚えていたので、「あのご両親が会ったこともないサイキックの言うことを信じるなんてあり得ないし、そもそも私はご両親にこんな突拍子もない話をする仲でもない」と悩み、自分が通っている教会の神父に相談したそうです。
その神父は心の大きい人で「自分がサイキックを信用しなくても、ご家族がどう判断するかは彼らの問題だから、この話をしてみても良いだろう」と言うので、「心を痛めているお母様に何かメッセジーがあると言うなら、無視するわけにもいかない」と思い、イリアナさんに電話をした、と。
マリアさんの同級生とイリアナさんは知り合いではないので、マリアさんから連絡をもらわなければ、イリアナさんがこの話を聞くことはなかったそうです。
サイキックからのメッセージとは?
マリアさんから電話を受けたイリアナさんは、すぐにでもそのサイキックに会って話を聞きたかったのですが、まずはお母様に相談しないわけにはいかないと判断し、ご両親と兄弟に経緯を説明。当然、みんな戸惑ったそうです。特にご両親は困惑して「何かの詐欺ではないか?」という可能性も考慮に入れ、家族が通う教会の神父や長老たちの意見を聞いたり、何度も家族で話し合いを重ねたそうです。そして数カ月後、ようやく「そのサイキックの話を聞いてみよう」と言う結論が出て、家族親族そしてマリアさんも一緒に10人以上が集まって、そのサイキックに会いにいったそうです。
家族が向かい入れたサイキック(イリアナさんの印象では極普通の中年白人女性)、はホッとした表情を見せて、まるで日常茶飯事の話をするように何が起きているのか話し始めました。
「あなたのお嬢さんと思われる美しい女性が、長い間にわたり私のところに何度も現れ、家族にメッセージがあるから伝えて欲しいと繰り返しています。そう言われても、その女性の家族が誰で、どこにいるのか分からないで困っていたところ、彼女とどこかで接点があった男性がお客さんとしてやってきたのです。それ以来、彼女からさらに頻繁に懇願されるようになりましたが、彼は全く心当たりがないというので困っていたところに、やっと彼が共通の友人に会えて接点が見えたのです。同窓会のおかげですね」
そして、肝心のエミリーさんからサイキックが受けた家族へのメッセージはこうでした。
「お母様、あなたのお嬢さんは天国で子どもの面倒見る保育園の先生のような役を与えられて幸せにしているので、心配しないでください」
これを聞いて両親の気持ちは一気に晴れたそうです。手の込んだ芝居だと思う人もいるでしょうが、イリアナさんは、「信じるか信じないかは別にして、お母さんが元気になったことには感謝しているの。妹と同窓生だった彼は関わり持つほどの知り合いではないからって、その日は来なかったけど、彼とマリアさんのおかげだと思っている」と言っていました。
以前は自死をするとお葬式もあげてくれなかったカトリックの教会も、最近は失った命とその家族を慰めるためにルールが少し緩和されているようです。また、信仰している宗教がなくても、科学では証明できない不思議なエネルギーがあることなどは信じている「私はスピリチュアル」と自称する人も最近、増えてきた気がします。
うちのお店に来られるお客様の中にも、日本に旅行に行って日本の神社仏閣でお祈りしたり、お守りを買ったというクリスチャン(キリスト教信者)や、宗教よりも星座占いや数秘を信じているという方もいらっしゃいますから、宗教の教えの解釈や理解の仕方も時代の流れと共に変わってきているのかも知れません。
何はともあれ、イリアナさんのお母様が元気になられて良かったです。新年もさらに素敵なとしになるよう、今月はシャンパンのカクテルで乾杯しましょう!
今月のカクテル:French 75

カクテルの名前の由来は第一次世界大戦で使用された75ミリ口径の大砲だそうですが、材料を見るとそんな恐ろしい由来とは相対して、爽やかなカクテルだと予想できます。シャンパンで作るので、シャンパンの種類や量で味変をさせたり、ちょっとしたお祝い気分も演出できます。市販のレモンジュースを使用するなら、シロップの量を調整してください。シェイクでしっかり冷やし、シャンパンはゆっくりとグラスに注いで。