アメリカ流のサービスを満喫するためには

わがままな人間だと思われたくない

 こんにちは、ランサムはなです。前回は、アメリカで暮らし始めた私が、「何が欲しいのか(What would you like…)」を英語で何度もたずねられているうちに、自分がいかに何も考えずに、周囲に寄りかかってのほほんと日本で暮らして来たかに気づかされ、もっと自分は何がしたいのかを真剣に考えなければ、と思うようになった、という話をしました。

 それにしても、自分のことって、考えれば考えるほどわからなくなるものです。

自分は今、何が欲しい(したい)と思っているのだろう?

 最初は少し、そんなふうに問いかける際に罪悪感が伴うこともありました。「自分のことばかり考えるなんて、自己中でわがままなのでは?」、「自己主張の強い、気の強いオンナはみっともないのでは?」と、悶々とすることもありました。今まで自分の心の声を聞く習慣がなかったので、「自分の意見を言う」ことと「わがままにふるまう」ことの区別がつかなかったのです。わがままな人間に見られたくないという思いから、自分の考えを言葉に出すことに抵抗を感じました。

注文の多すぎる人たちを見て驚いた

 でも、周囲を見回してみると、アメリカの人はこちらがびっくりするほどはっきり自分の希望を伝えます。はたで見ているこちらが呆気に取られてしまうこともあります。日本の感覚からすると、その姿は「やりたい放題」、「やりすぎ」に見えることもあります。

 たとえばレストランに行った時に、「私のサンドイッチは胚芽玄米パン、マヨネーズ抜き、マスタードはたっぷり、レタスは多めでピクルスは抜き、付け合わせのサラダはスープに替えて……」など、延々と事細かく自分の希望を説明している姿。日本なら「ウザイ客」認定間違いないでしょう。その他、家電量販店に行った時に、カスタマーサービスのカウンターで、明らかに開封して何回か使ったことがわかる商品を、領収書もなしで返品しようとしている姿。「そこまでやって、いいんかい?」と、開いた口がふさがりませんでした。  

 その一方で、それだけやりたい放題にふるまう顧客に対して、嫌な顔ひとつせずその要望に応えようとするウェイトレス・ウェイターや、サポート担当者の姿勢にも驚きました。「なぜこんな駄々っ子みたいなお客に対して、サービス業の人はにこやかに対応しているんだろう? なんでこんなわがままが許されるのか?」が、不思議でたまりませんでした。

日米では最高のサービスの価値観が異なる

 日本で評価される「サービス」は、こちらが何も言わなくても気を利かせ、おしぼりやお茶を出してくれるとか、「あうんの呼吸」で先回りしてこちらの面倒を見てくれる細やかさが土台にあるのではないでしょうか。

 アメリカで提供されるサービスでは、そういう気の利かせ方を見かけることはあまり多くありません。でも、お客様の望みを叶えてあげようと一生懸命になるところは、日本に負けず劣らず素晴らしいものがあります。特に客からチップをはずんでもらわないと、支給される時給だけでは安すぎて生活していけないレストラン業界などの人たちは、あの手この手でお客様を喜ばせようと工夫をします。

 そんなことを考えているうちに、ある日思いついたことがありました。

「ひょっとするとアメリカでは、望みを叶えてあげる=わがままを聞いてあげることが、最高のサービスだと思われているのでは?」

そう考え始めると、すべてが腑に落ちることばかりでした。レストランが、お客様のリクエストに応えてメニューにない一品を作って出したり、夫が妻の欲しがっていた旅行をサプライズでプレゼントしたりするなど、この国は「わがままを聞いて喜ばせる」ことが一番のサービスだという理念を持っているようです。

 このように「サービス」の定義と期待が、日本とアメリカではかなり違うことが理解できるようになると、アメリカ流の自己主張が日本では不評である理由も理解できるようになりました。日本では先回りをすることがおもてなしの一部に含まれているので、アメリカ流に自分の希望をストレートに伝えられると、「先回り」する余地が少なくなってしまいます。状況によっては、お客が希望を一方的に述べ立てると、(サービスを提供する側が)気が利かない印象を与えてしまう恐れもあります。サービスを受ける側も、このような言葉にならない期待感の違いを理解して立ち居振る舞いを変えると、両方の文化でサービスを十分に満喫することができます。

 結局のところ、アメリカで良い「サービス」を受けようと思ったら、お客側も「わがまま」が言えるほど自分のことを熟知して、それを伝える力がなければ、アメリカ流のサービスを満喫することはできない、と言うのは、私にとって目からウロコでした。日本では「わがまま」と受け止められるかもしれない反応も、アメリカで良いサービスを受けるためには必須。自分の要望が言えることは必ずしも悪いことではなく、お互いに気持ちの良いやり取りをするために必要なスキル。「自分の要望を伝える」=「わがまま」ではなく、「悪いこと」でもない、という気づきは、大きなカルチャーショックでした。

 固定観念として染みついていた「物事はこうでなければならない」という価値観が揺らぎ、心が囚われから徐々に解放されて、自由になっていくのを感じました。

ランサムはなのワンポイント英語レッスン

Service」にはいろいろな意味がある:

日本語で「サービス」という言葉は「カスタマーサービス」とか「無料プレゼント」など、何かを(して)もらえるという意味で使われることが一般的かと思いますが、英語の “Service”は、「奉仕」、「兵役」、「礼拝」など、もっと多くの意味があります。盲導犬など障がい者に寄り添う動物は「Service Animal」と呼ばれたりもします。根本にあるのが「仕える」という概念であることを理解すると、どうしてこんなにたくさん意味があるのかを理解しやすいのではと思います。

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