『もういちど親子になりたい』

児童養護施設の職員さんからの贈り物

 ついに太郎くんが児童養護施設から我が家へ引っ越して来て、住民票を移動したところまでお話しました(前回までのお話はこちら)。今回はいつもと少し趣向を変えて、私の子育て人生に最も影響を与えた書籍を紹介します。

 太郎くんが児童養護施設を出る日、その施設で最も長く勤務されているベテラン職員の中村さんが、私に1冊の本を差し出して、こう言いました。

 「ももさん、この本を私からあなたへプレゼントさせてください。児童養護施設や里親のもとで生活している子どもたちの心理的な発達について書かれています。おそらく今後、太郎くんと生活していく上で必要になることが、この中にあると思うので、ぜひ、お読みになってください」

『もういちど親子になりたい』芹沢俊介著

 お礼を言いながら表紙にチラッと目を向けた私は、こう思いました。

「まだ、私たちは親子になっていないけれど……。」

 もちろん、その時の私は、この本がその後、太郎くんと生活していく中で救世主のような存在になることなど知る余地もありませんでした。

自分を無条件に差し出して

 太郎くんとの生活が始まった最初の週はあっと言う間に過ぎ、金曜日の夜の寝かしつけが終わったとき、ふと、机の上に置かれた中村さんから頂いた本が目に止まりました。190ページほどもある本でしたが、「週末だから少しくらい寝坊してもいいかな」と思い、本を開きました。

 結論から言うと、とても、とても興味深い内容の本でした。

 まず冒頭から、私が生まれ育った環境の「血縁関係がある親子」と、今の我が家のように「血縁関係はない親子」の間における「親子である」「親子になる」ことについて書かれていました。

 そして、私のような里親たちは、「里親として、親子であると感じられるまで、自分を無条件に差し出し、子どもの表出を受けとめ続けられますか?」と問いかけられます。なぜならこれこそが、「他人の子を我が子として迎え入れるための不可欠かつ唯一の要件」だから、と。

 その問い掛けを読んで、「私はそれができると思ったから、里親になることを決めたんだ」と覚悟を新たにしたと共に、「でも、受けとめ続けられないこともあるから、ここにこうして書かれているんだろうな……」と気づき、「子どもに対して自分を無条件で差し出すこと」について自分なりに考えながら、さらに読み進めていきました。

「試しの行動」は何を意味するのか

 「試しの行動」については、複数の里親たちが体験した実例が書かれていました。「試しの行動」とは、子ども(里子)が「ありのままの自分が大人(里親)に受け入れられているかどうかを確認することを試す行動」のことです(4話参照)。

 紹介されている実例の数々は、「こんなことが起こることもあるのか……」とすべて興味深く読みましたが、何より驚いたのは「試しの行動は半年から1年間ほど続く」と書かれていたことです。これを知った時は、「えーっ、そんなに長く?!」と正直、ゾッとしたことを覚えています。

 後日談ですが、我が家では太郎くんの「試しの行動」が実に3年も続きました。今となってはすっかり笑い話ですが、当時は死に物狂いでした(汗)。

私の人生に最も影響を与えた書籍

 この本には他にも、たくさん為になることが書かれていますが、なかでも特に、親として取るべき子供との関わり方や、避けるべき関わり方の説明には、正直、目からうろこの状態になりました。

  • 親が子どものことを自分の思い通りにするかかわり方をやめ、子どもを自身のままに受けとめる必要がある
  • 「親子になること」を妨げているのは、親の中にある「子どもを自分の思い通りにしたい」という感情が原因

 さらに、実例をいくつも挙げて、「これらの行動の背景にはこのような理由がある」と、子どもの心理的発達の観点からの説明の数々もとても参考になり、私は時間を忘れて本にのめりこみました。

 そして、初めてこの本を手に取って以来、この本は私にとって『太郎くんの取扱説明書』と言っても過言ではないほど、大切なものになりました。

 私は35歳の時に太郎くんの母親にしてもらって以来、この本に書かれていた「他人の子を我が子として迎え入れるための不可欠かつ唯一の要件」である「親子であると感じられるまで、自分を無条件に差し出し、子どもの表出を受けとめ続けられますか?」という問い掛けを、ひと時も忘れることなく過ごしてきました。この問い掛けに出会えたことに、心から感謝しています。

 これまでに、「あなたの人生を変えた本を1冊教えてください」という質問を受けたことがある方も多いと思いますが、私の場合は、迷わずこの本を挙げています。

 この本は、社会的養護関連の子どもたちとの関係を中心に書かれていますが、血縁のあるなしにかかわらず、子育てをしているすべての方に一度は読んでいただきたいと思います。

<前回までのお話>

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