「老い」の認識に見る、日本とアメリカの違い

「老眼鏡」は英語だと「Reading Glasses」

 こんにちは、ランサムはなです。暑くなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。前回のコラムで、虫刺されが悪化して皮膚科にかかることになったと書きましたが、それを皮切りに、歯医者や眼科などへの病院通いが始まりました。幸い深刻な病気はありませんが、ここ数年、病院とは無縁の生活を送っていたので、「寄る年波には勝てないのかなぁ」と思うこともあります。

 眼科に行った時に気づいたのですが、アメリカの眼科では「老眼鏡」のことを「Reading glasses」と呼びます。直訳すると「読書用メガネ」です。「老眼鏡」という日本語と比べると、なんと「老い」を感じさせない表現でしょうか。「近くが見にくくなった人が、字を読むときに視力を矯正するメガネ」であって、「老眼」とか「老眼鏡」などのように、「老」という言葉は一切使われていません。そのことが、アラフィフの身には、何だか嬉しく感じられます。老眼を矯正するメガネであることに変わりはありませんが、呼び方が異なるだけで利用する側の気持ちも変わる気がします。

わざわざ高齢者だけを分ける利点って、何?

思えば日本は、「高齢者向けパソコン教室」「シルバーシート」「シルバー人材センター」など、「老い」や年齢を意識せざるを得ない表現や、「年甲斐もなく」「いい年をして」などの表現もよく使われます。つまり、好むと好まざるとに関わらず、「年齢とそれにふさわしい行動を意識しながら暮らすこと」が良しとされる社会のような気がします。

一方、アメリカでは、年齢にとらわれない生き方を良しとする風潮が強いせいか、老いを意識させられる表現が少ないのです。

たとえば、「Reading glasses」のほかにも例を挙げると、「年を取る・年を重ねる」ことを英語では「aging」と言います。「年」という意味の「age」を重ねていくから「aging(加齢)」。わかりやすいですよね。もちろん「老朽化」のような意味で使われることもありますが、「熟成食品」など、年を重ねることが好ましい場合の表現に用いられることもあり、必ずしも「old(老い)」を全面的に打ち出している印象は受けません。英語では「年老いた」という意味で「old」という言葉が使われることも、ほとんどありません。たまに”I’m old!”と冗談を言う人もいますが、それはあくまで自虐的な冗談です。

アメリカでは高齢者をそれほど特別視していないせいか、対象者を「高齢者」で括った「高齢者向けパソコン教室」のような講座も見かけません。「それではアメリカの高齢者はパソコンが使えないのか?」というと、そんなことはなく、パソコンやスマートフォンなどのデバイスを使いこなせる人は意外に多い印象です。独学で学習したり、子どもや孫に教えてもらったり、近所の集りやワークショップで習ったりしているようですが、アメリカ人は「便利なツールは、何歳であっても使いたい」という気持ちが強いのかもしれません。

自分が年を重ねたことによる心境の変化

私が若かった頃、私には「アメリカ人は若さや見た目に固執している」ように見えていました。顔のしわを隠すためのボトックスなど、美容形成外科の発達も、ちょっと行き過ぎ。若さを保つために頑張り続けることに違和感を覚えました。

だから、私は「年を取ったら、高齢者にやさしい日本に帰って、年齢に逆らわずに穏やかに余生を過ごしたい」と考えて、実は30代半ばで一度、日本に永住帰国したんです。

 ところが自分が実際に年を重ね、若い頃に思い描いていた「余生」の年齢に近づいてくると、自分がまだまだ元気であり、「高齢者」と呼ばれるには早い、という気持ちが強いことに気づきました。さすがに美容整形をしようとは思いませんが、高齢化が進んでいる今の社会の中では、アラフォー、アラフィフはまだまだ若いのです。

 若い時分には自分が部外者だったために気づきませんでしたが、「高齢者」として労わられることは、よくも悪くも特別扱いであり、その特別扱いを私は手放しで喜ぶことができませんでした。日々年齢を重ねていく中で、何かの拍子に老いを感じることはあっても、一定の年齢に達したからと言って、急に意識が「高齢者」に切り替わるということはありません。当の本人の気持ちはお構いなく、年齢で一律に線引きをされ、「特別扱い」枠に入れられてしまうのもいかがなものか、と感じるようになりました。

 日本で10年ほど暮らした後、「手遅れにならないうちに、もう一花、咲かせたい」「今ならまだ間に合うかもしれない」と思い立ち、再びアメリカに戻ってきたのが40代半ばでした(二度目の渡米は若い頃と比べると、本当に大変でした)。

 今は、「これで良かったのだろうか」と思うこともありますが、アメリカではアジア人が比較的若く見られることもあって、年齢をあまり気にせずに過ごせています。二度目の渡米後は、YouTubeチャンネルを開設したり、Go Women Goで連載をさせていただくなど様々な挑戦を始めましたが、あのまま日本に留まっていたら、「年甲斐もなく」という気持ちが自分にブレーキをかけてしまい、このような挑戦ができなかったのではないか……と思う今日この頃です。

 この後の人生がどのような展開になるかわかりませんが、いずれにしても、お互いに悔いのない余生を過ごしたいものですね!

ランサムはなのワンポイント英語レッスン

アメリカでは年齢を聞くのは失礼

日本では上下関係がわからないと敬語の使い分けがわからないため、初対面の人と会うと、すぐに「この人は何歳ぐらいの人なんだろう」と考えてしまいがちですが、アメリカではストレートに年齢を聞くのは失礼。20~30代の若い人であれば、年齢を尋ねてもそれほど問題はありませんが、40代を過ぎたあたりから、デリケートな話題になってくるように思います。以前に日本語を教えていた時に、仲良くなった10代後半の教え子の一人に「先生、いくつ?」と聞かれました。逆に言うと、年齢を聞けるほど仲良くなったということですが、「何歳だと思う?当ててごらん。I’m old!」と言ったところ、「う~ん」と一生懸命に考えた挙句、「70歳?」と言うので、噴き出してしまったことがあります。「違うよ」と答えると「じゃあ、50歳?」と急に20歳も飛びました。若い頃は自分も50代以上の世代の年齢の区別がつかず、誰もが同じような年齢に見えていたことを思い出しました。

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