里親研修では、どんなことを学ぶの?

乳児院と児童養護施設

 私と夫が受けた研修の内容には、座学と実習がありました(前回までのお話はこちら)。

1)社会的養護の担い手である里親として、子どもの養育を行うために必要な知識について講義形式(座学)で学ぶ。
2)乳児院または児童養護施設にて1回の現場研修(実習)。

 実習で訪れるのは乳児院または児童養護施設です。乳児院とは家庭による養育が困難な新生児から2歳くらいまでの乳幼児が生活する施設。児童養護施設とは、家庭による養育が困難な2歳からおおむね18歳の子どもたちが生活する施設です。

里親になるために必要な最低限の知識

 座学では里親になるために必要な様々な情報や知識を学びます。たとえば……

里親を必要とする子どもたちの現状
 子どもたちの背景には虐待や育児放棄、貧困家庭、親の病気、親が行方不明、親の収監、親の仕事の都合等、実に様々な事情があります。また、里親委託率や施設等で暮らす子どもの数、特別養子縁組成立件数等の説明がありました。

里親の年齢的な要件
特別養子縁組里親のケース
新生児委託を想定した場合、子どもが成人する時点で安定した収入があることが望ましいため、年齢的にはおおよそ45歳くらいまでとなります。
養育里親のケース
委託される子どもの年齢や委託理由にもよりますが、40代半ばよりも上の年齢の里親も対象になります。

里親が乗り越えなければならない「壁」
 里親はいわゆる「産みの苦しみ」を経験していないため、それに代わる「苦しみ」(この表現が正しいかどうかは一旦横に置いて……)には、主に以下のようなものがあります。

試しの行動:子どもが自分のことが里親に受け入れられているかどうかを確認するためにとる、大人を困らせる行動。
真実告知:生みの親が養親とは別にいて、養親とは血縁関係がないこと等を含む「生い立ち」を伝えること。
愛着障害:愛着とは、幼少期に子どもと親や養育者との間に信頼関係や愛情の情緒的きずなが育まれることですが、愛着障害とは、何らかの理由で子どもが愛着を感じられないまま大人になること。愛着障害をもつ子どもたちがいることを理解する必要があります。

特別養子縁組里親または養育里親における流れ
特別養子縁組里親のケース:
マッチング(出会い)→ 交流(日帰り、泊りでのお出かけ等)→ 委託(一緒に生活し始める)→ 裁判所の手続きを経て実子となる
養育里親のケース:
 マッチング(出会い)→ 交流(日帰り、泊りでのお出かけ等)→ 委託(一緒に生活し始める)→ 委託の解除(一緒の生活が終了)

子どもが2~3歳くらいまでの場合、「交流」が省略され「委託」が始まるケースもあります。

子どもの委託に当たっての支援体制
児童相談所、施設等の特別養子縁組推進担当等からの支援:
日々の生活全般についての相談ができたり、児童相談所の職員の定期的な家庭訪問がある。
子どもの生活費、医療費等の支援もある。

「里子になりたい子どもは1人もいない」

 座学の中で、講師の印象的な言葉はいくつかありましたが、その中でも「里親は全員がなりたくてなっているが、里子になりたい子どもは1人もいない」が、私の心に一番響きました。

 また、講師の話を聞く他に、研修参加者にてグループ・ディスカッションをしたり、先輩里親の体験談を聞く機会もありました。

 研修初日のグループ・ディスカッションでは、2組の夫婦が1つのグループとなり、里親を希望した理由を中心に、お互いの自己紹介をしました。私たち夫婦とグループになったAさん夫妻が里親を希望する理由は、「不妊治療を試みたが、実子を授かることができなかったので、特別養子縁組をすることを決めた」でした。

この後、参加者全員とも自己紹介をする機会が与えられ、私たち以外ほとんどのご夫婦がAさん夫妻と同様、「不妊治療 → 実子の見込みなし → 特別養子縁組」で、私は正直、これに驚きました。と言うのも、私たち夫婦とは理由が全く異なったからです。

 私は「特別養子縁組の先進国」とも言われているアメリカで14年過ごし、その中で特別養子縁組について学びました。夫はアメリカ生まれのアメリカ育ち。多くのアメリカ人が特別養子縁組を希望する理由は、「家族を必要としている子どもと家族になりたいからです。それまで私はこれ以外の理由を聞いたことがなかったため、特別養子縁組は子どものための制度だという認識を持っていました。だから、初めて「実子を授かれなかったから、特別養子縁組で子どもが欲しい……」という理由を聞いて驚いてしまったのです。

 私にとってそれは、大人の都合にしか聞こえませんでした。「もしかして、日本人とアメリカ人の特別養子縁組に対する認識は、正反対なの……?」と感じずにはいられませんでした。

子どもが「試しの行動」をとる理由

 里親研修の2回目以降のグループ・ディスカッションでは、座学の内容について感想を話し合ったり、意見交換をしました。また、先輩里親の体験談を聞く機会もあり、特別養子縁組里親と養育里親経験者が1人ずつ貴重なお話をしてくださいました。

 どちらの里親も、実際に経験した子どもの「試しの行動」についてのお話は非常に興味深いものでした。

 子どもが家に来てから初めの数日から1週間は、とてもいい子にしています。この時期を「見せかけの期間」といい、これは子どもが里親の様子を伺っている時期のことです。その後、子どもが里親をはじめ日々の生活に慣れてくると、大人を困らせる「試しの行動」が始まります。その中で「赤ちゃん返り」と言うものがあり、一般的に哺乳瓶を使うような年齢ではない子どもが、哺乳瓶で飲み物を飲みたがったり、ハイハイをしたり。また、子どもの視界から里親がいなくなると大泣きをしたり、常に後をついてくるため(後追い)、トイレにも行けない等の事例を挙げていました。

 子どもが「試しの行動」をとる理由には、子どもが「自分は愛されている。すなわち何があっても、この大人だけには自分は見捨てられることがない」ことを確認するためにやる、とのことでした。これについて、研修参加者の1人が「試しの行動は、どのくらいの期間続くのか?」と質問しました。答えは「子ども自身が満足するまで、つまり心が満たされるまで続くので、子どもによりけり。数カ月で終わることもあれば、数年かかることもある」。これは里親にとって試練ですが、これこそ「里親として乗り越えなければならない壁」であり、乗り越えてこそ「親子になる」ことが出来るのです。残念なことに、この壁を乗り越えることが出来ずに複数の里親を転々としたり、施設等に戻る子どもがいることも事実なのです。

 また、「真実告知」は、実際にとった方法や時期(子どもの年齢、子どもを迎えてからどのくらいの時間が経った頃)等をお話してくださいました。真実告知は里親として決して避けて通れない最大の関門のひとつであり、私はこの時に、我が家に来る子どもに対しては、「うそ隠しなく、年齢相応に、子どもが納得いくまで説明する」という自分のポリシーを決めました。

養育里親には子どもの親権がない

 養育里親には子どもの親権がないため、子どもが任意の予防接種を受けるかどうか等の事案に遭遇する度に里親が決めることが出来ずに実親に確認する必要があります。しかし、先輩里親さんの話では、「そういう時に実親となかなか連絡が取れなかったこともあった」そうです。また、子どもが実親の元へ戻ることを想定した養育の場合、戻った後にそれまでと同じように習い事や塾等を継続することが経済的に困難だという理由で、「里親との生活期間には、習い事や塾等へは行かせて欲しくない」等の要望もあることも知りました。先輩里親さんはお話をしながら、そして研修参加者の多くは聞きながら、ところどころで感極まり、涙を流す場面もありました。

 私たちの研修では実習は乳児院にて行い、1組の夫婦がひとつの施設で、他のご夫婦と重なることはありませんでした。到着直後、職員の1人が施設の案内してくださり、初めて児童相談所に行った時と同様、「乳児院ってどんなところだろう?」とキョロキョロと辺りを見回す自分がいました。すると、幼いころの記憶が急によみがえり、「乳児院って、自分が通っていた保育園みたいだなぁ~」とタイムスリップしたような感じがしました。

 そしてついに、かわいい赤ちゃんたちを目の前にしたとき、「どの子が我が家に来るんだろう?」と思わずにはいられなかったと同時に、「ここにいる赤ちゃん全員が、何らかの理由で家庭で生活できないのか……」と、とても複雑な気持ちにもなりました。

 その後、職員の指示に従いながら、子どもたちと庭や部屋の中で遊んだり、抱っこをしたり、入浴後に身体を拭いて服を着せたり、おむつ交換の際の着替えをやりました。子どもたちの中で、1人の男の子が私と夫の両方にとても懐いてくれました。帰り道、夫との会話で、「私たちに懐いてくれた男の子、我が家に来るかもね~。職員さんはきっとその様子を見ていたはずだから、私たちのことを養親として推薦してくれるかもね~」と、気持ちだけが勝手に先走っている自分がいました。

 でも、さらにまだ超えなければならないことがあったのです(苦笑)。次回はそれについてお話します。お楽しみ〜!

前回までのお話はこちら

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