【カリフォルニアの隠れ家バー便り】
世界中からチャンスを求めて移住者がやってくる米カリフォルニア。人種の坩堝の中で生きる様々な人たちが、ふらりと訪れる小さなバーで働く日本人バーテンダーが、カウンター越しに耳にしたリアルなアメリカをつぶやきます。
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恋愛ステップ1「出会い」
今日のお客様
博士号を取得して癌研究に勤しむイタリア人女性、オタビアさんは30代前半。忙しいけれど、恋愛も楽しみたいお年頃で来店される度に恋愛の進捗状況を話してくれます。今回は彼女から今のアメリカにおける「恋愛の5ステップ」について教えてもらいました。私が若かった頃とは恋愛常識がだいぶ変わっていて……。さて、その5ステップとは?
最近は出会い系のアプリを駆使している人がかなり増え、オタビアさんもアプリを使っています。アプリでは同時に数名の人と「出会う」ので、実際に誰かと「会う」までにはいくつかの段階がある(ステップを踏む)そうです。
まずは気が合いそうな人がいたら、アプリ内で連絡を取り合う。やりとりが進行すると、アプリではなくお互いの携帯番号を交換してメッセージのやり取りをしてみる。それから電話で「会話する」、あるいはビデオチャットへと以降。そして、実際に会う「初デート」へと進展していくそうです。その間、ネットで相手を検索し、S N Sの投稿内容を読んだり、趣味や嗜好などのリサーチも怠らないとか。
恋愛ステップ2「デート」
私たち(アラフィフ)が若かった頃は「デートをする」というと、もう「お付き合いをしている」段階だったような気がしますが、今の米恋愛市場における「デート」とは「いろんな人とデートをする」という段階を指すそうです。
複数の人とメッセージをやりとりしたり、電話で話をしたり、会ったりする。お話するだけなら何人とでも会うのだとか。
アプリのプロフィールを読み、S N S投稿などを見る事前リサーチで、相手のことをだいたいわかっている状態からの初デートでは、どんな話をするのか聞いてみると、「話の内容というより、どのくらい話をする人なのか、私の話を聞いてくれる人かなどを見ている感じかな」と、オタビアさん。確かに、一緒にいて話が面白いとか、自分の言うことに耳を傾けてくれるかなどは、見極めておきたいところでしょう。
このデートの回数が少し増えると、過去の恋愛経験の話を共有して「以前の関係を引きずっていないか?」をしっかりチェックすることも、次に段階に進む重要なポイントだそうです。
恋愛ステップ3「エクスクルーシブ宣言」
デートを数回重ねて気が合ったら、そこでようやく「エクスクルーシブ宣言」をするそうです(エクスクルーシブ=exclusive=独占的な、専用の)。
実際に何か儀式があるわけではありませんが(笑)、この段階に達すると、お互いにアプリからプロフィールを削除し、「他の人とは電話もデートしないという約束をかわす」のが、エクスクルーシブの定義だそう。
なるほど、「つまり、ここからお付き合いが始まるってことですね」と思いきや、この段階はまだ「お試し期間中」。この期間中に2人で過ごす時間を増やしていき、「このまま長く一緒に連れ添っていけるか」を見極めるのだそうです。
「若いのにえらく慎重なんですねえ」と言ったら、「私が特別ではなく、アプリで出会う場合みんなこうしているわよ。このくらいやらないと何もわからないわ」とピシッと返されました(笑)。
恋愛ステップ4「ボーイフレンド、ガールフレンド宣言」
このステップ4、「ボーイフレンド、ガールフレンド宣言」をして始めて「この人とお付き合をしている」と言えるそうですこの段階に到達すると、「今日はお付き合い第一日目」として、お互いを「彼氏」「彼女」と言えるようになるとか。
「それまでデートしてきた間は彼氏じゃないの?」と聞くと、この宣言前までは「よくつるんでいるただの男友達」ということ。友達以上パートナー未満という表現でもなく、ただの男友達とは。
ステップ4までかなり時間がかかりますが、このステップ4に到達することで、今後の「100日記念日」や「1周年記念」などのイベントの予定が立てやすいというメリットもあるそうです。そんな記念日があることも、私は知りませんでしたが……(笑)。
オタビアさんは今のお相手と現在この段階にいるそうです。もう正式にお付き合いをしているのですから、「このステップ4でゴールですよね?」と聞くと、「まだ重要な最終ステップがあるのよ」と。しかも、それが最難関だとか。
恋愛ステップ5「Lワード」
恋愛のステップは全てクリアしたように見えるオタビアさん曰く、最終のステップ5が「一番てこずる」そうです。それは、どちらが先に「愛してる(I love you)」を言うか、だから。
アメリカでは恋愛関係にある二人の中で使用する「I love you」というセリフのことを、ラブの頭文字をとって「Lワード」と言います。これは日常生活でアメリカ人が家族や親友やペットに挨拶のようなカジュアルさで使う「I love you」とは、同じ言葉ですが意味が違うのです。重さの違いと言ってもいいかも知れません。
日本語で「好き」と「愛してる」をどれくらい使い分けるのか私にはよくわかりませんが、アメリカで出来たてホヤホヤのカップルにとっては「I love you」と相手に言うタイミングはかなり重要。早すぎれば「前のめりっぽくて引かれる」こともあるし、逆にいつまで経ってもLワードが言えない人は「コミットメント恐怖症」の可能性があり、「感情指数が低い」とか「感情表現に不具合がある」ということで、お別れの理由につながるそうです。
オタビアさんは「彼が言うまで、私からは絶対に言わない」という主義を貫いているとか。欧米人はいとも簡単に「Love」という単語を口にすると思っていましたが、こと恋愛進展中は慎重になるようです。
この「Lワード」を使い始めたら、そこではじめて「完璧なカップル誕生」。ここからお互いに真剣な関係が始まるそうです。
この段階に到達する前に脱落する人が多いだけでなく、この段階を過ぎたあとにお別れすることになった場合、そこまで時間を費やした分、かなり落ち込むらしいです。いやもう、それはそうでしょう。
漁場が広がり魚の数も種類も増えたけれど
アプリでの出会いが主流となった恋愛市場は、「漁場が広くなったから、釣れる魚の種類も数も豊富になった」というのが私の印象です。
ただその分、魚の下準備や調理法も多様になり、みなさん情報収集にとても時間をかけているようで、昔よりも作業が増えたようにも見えます。面倒くさがりの私からすると、「今20代、30代でなくてよかった」というのが本心。オタビアさんに、私の結婚は「出会ってから同棲までに4カ月、その2カ月後に結婚。婚約期間は約10時間という速攻結婚」だったと話すと、「アンビリーバブル!」と大笑いされました。
早くオタビアさんの彼がLワードを使ってくれるといいですね。その時には、ぜひ二人で来店していただき、お気に入りカクテルで乾杯したいものです。
今月のカクテル:ガリバルディ
この名前を聞いたことがない方が多いと思いますが、要はカンパリオレンジです。ビタースイートなカンパリと爽やかなオレンジジュースだけのとても簡単なカクテルですが、美味しくするコツがあるのです。オレンジを高速で回転するジューサーで絞るか、絞った後にブレンダーか泡立て器で空気を入れてふわふわにする。そうすることでカンパリの苦味がやわらぎ、クリーミーな仕上がりになります。混ぜる時もこのふわふわ感がなくならないように、そっと混ぜてください。