アメリカでは、若いうちから遺言書!

自分には遺言書なんて必要ないと思いがち

 こんにちは、ジョーンズ千穂です。前回は「痩せる!」ことから、健康に長生きすることを心掛けるようになったとお話しました。今回はそれに関連して、ちょっとアメリカらしい話題、「遺言書」(英語ではWill)についてお話します。

 遺言書と聞くと「高齢者の方々のお話」というイメージがありませんか? テレビのドラマ番組とかに出てくるような、財産のある老人が病床から弁護士を呼んで相続の内容を告げる……といったシーンが頭に浮かぶ方も多いかも。遺言書を書くなんて、ちょっと特別な人がすることというか、一般的にはあまり親しみがないかも知れません。

 アメリカでは元気なうちに本人の意思を遺言書に書いて、それをノータリー(公証)してもらうのが一般的です。ノータリーとは、公証人や弁護士立ち合いの元で、その遺言書の内容を証認してもらうこと。弁護士はまあなかなかの高額ですが、ノータリーは意外とお手頃で、場合によっては無料のサービスがある銀行なんかもあります。

たとえば、脳死した場合には「人工呼吸器や胃ろうはしたいか」、「臓器の提供はどうするか」、亡くなったあとには「お葬式やお墓はどうするか」、「財産はどうするか」など、本人の意思が書かれたものが残されていないと、事がスムーズに運びません。

遺言書は、形式に従って書かれたもので証人(第三者)のサインがあれば、ノータリーがなくても良いのですが、ノータリーしてあると簡易裁判を通して遺言書の検証がすぐできるため、手間も、時間も、お金も相当軽減されます。

これは実話なのですが、病床の本人に人工呼吸器を長く付ける希望がなくとも、「人工呼吸器を外さないで!」と懇願する家族がひとりでも出た場合、「それをいつ外すのか」を残された家族が決断を下すという厳しい選択を迫られることもあります。そんな時に、ノータリーされている本人の遺言書があれば、呼吸器は外さないでくれと懇願する人がいたとしても、本人の意向に沿った対応ができるので、その判断を巡る親族内の確執が軽減さなれます。

アメリカの医療費はものすごく高額であることも知られていますが、医療が発達した今、人工呼吸器や胃ろうをすると、会話もできず意識もない脳死状態であっても命を長く保てるケースが多いので、苦しい思いを長くしたくないという考えだったり、自分のために高額な医療費を負担する家族のことを考えて「人工呼吸器は希望しない」という選択をしておく人は多いといわれます。 遺言書のことを考えるなんて、まだまだ先のこと……と思っている人は多いでしょうが、アラフォーやアラフィフとなってくれば、やはり万が一の準備はしておいたほうが良いのかなと思います。それに、遺言書があるのとないのでは、何かあったときに対応する配偶者や残された家族の心の負担が減るのは確かです。ですから、この機会にみなさんも一度、遺言書を書くことを検討されてみてはどうかなと思います。

遺言書はライフステージに合わせて書き換えるもの

 意外と知られていないようですが、「遺言書は何度でも書き換えできる」んです。書き換えできる、というよりも、自分のライフステージに合わせて「書き換えていく」ものなのです。

 私たち夫婦は、以前に住んでいた州で遺言書を作っていました。でもアメリカでは引っ越して州が変わると、まるで国が変わるのと同じような扱いになるので、新しい地でまた新たに遺言書を作る必要がありました。

私たちが遺言書に入れた内容は、おおまかには、まず人工呼吸器、臓器移植などの希望について。そして、どちらかが先に旅だった場合に、誰にどの手続きを担当してもらいたいかの希望。私の場合は、日本に住む家族への連絡先や渡米してもらう際の手配、法的な手続きに関して通訳を通して話をしてもらえるかの確認などもしつつ、いろいろ記入しました。私の日本の家族が、私がいないのに英語だらけの環境の中で状況を呑み込めないのが想像できるので、そこはしっかり通訳を手配し、場合によっては弁護士とも通訳を通して話して理解してもらいたい。私の亡き後、誰か一人の意見や片方の家族の意思だけでいろいろと決定されることがないようにと考慮しました。

今はこれを保管していますが、自分の人生の状況や環境が変われば、そのときどきで遺言書の内容を見直して、必要があれば描き直していくつもりです。

遺言書の作成は相手に任せないことが大切

 私はアメリカにそこそこ長く住んでいるので、私と同じようにアメリカ人と国際結婚をした日本人女性たちと知り合う機会は多いわけですが、「大丈夫かなあ」と心配になるほど「アメリカ人の夫にすべて任せている」という日本人女性たちが多くいます。特に、お金のことをすっかり夫に任せている人が多いんですよね。

なかには、英語には不自由していない日本人女性でも、アメリカ人の配偶者が急にいなくなったら困るであろうこと、たとえば夫婦のファイナンス状況の把握や生命保険の内容、証書番号などを全然知らない人もいます。人生100年時代、それではあまりにも危険ですよね?

 そういう我が家も、これまではデビちゃん(夫)に任せきりでした。でも、長引くコロナ禍で何があるか分からないし、パイロットという仕事上、感染が拡大しているホットスポットへ行くことも多い夫です。もしも彼に何かあった時には、私がひとりでやっていかなければなりません。

だからコロナ禍を機に、税金や光熱費などの支払い方法、家族で運用しているお金の動かし方、家計を管理するフローなどを全部教えてもらって、それを記録しました。個人年金のIRA、会社を通して行う年金の401K、保険料をセーブするHSA(Health Savings Account)なども、「いつになったらいくら貰えるのか」、「これは引き出すときに税金がかかるが、これはお金を入れる時に税金を払う」、「この口座から医療費に使えば、それには税金がかからない」、「個人年金は1年に決まった金額しか入れられない」などなど、これまでは知らなかったことを書き出しました! それを運用したり、入金したりする仕組みがこれがまたなかなか複雑で、アメリカ人同士でも良い方法はないかと情報交換するくらいなのですが、習っておいてよかったと思っています。

自分が「何を知らないのか分からない」のは危険

 アメリカに住んでいる日本人の友人たちの中には、配偶者を亡くされた方もいらっしゃいます。そのときに、みなさんが困っていたことの大きな課題のひとつが、その後の家庭のお金の管理でした。

確かに、私がデビちゃんから家計の仕組みを細かく教えてもらった時も、「これは1回じゃ覚えられないよな~」と焦ったので、いきなりポンとすべてを渡されても、「何を知らないのかが、わからない」、「どこに何があるのか知らない」、「それをどうやればいいのか分からない」。 「なんだ、そりゃ?」と、なっちゃうのも分かる、分かる! 私もそうですが、「いつかは、やらなくては」と思ってはいたものの、なかなか腰が上がらないものですよね。

でも、きっとこういうことは、在米の日本人妻たちだけでなく、日本在住の女性たちにも同じような人がいるのはないかと思います。もし、「何かあったとき、家族のお金はどうすればいいか」を、まだ夫やパートナーと話してないな~とか、ご自身以外に頼る人がいないという場合は(身内でもお金が絡むと変身することがあるのを見ているので、私は自分で何とかしなくてはいけない派です)、この機会に思い切ってお金の話をされてみることをお勧めします。私もこれからデビちゃんがファイナンスの話をする時は、もっと真面目に話を聞こうと思っています(笑)。

では、みなさま、ごきげんよう。

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