SXSWに見る、未来と現実との距離感

SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)とは?

 こんにちは、ランサムはなです。私は先週、私が暮らすテキサス州オースティンで開催されたSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)という街を挙げての一大イベントに同行通訳者として参加してきました。

 SXSWについて簡単に説明すると、1987年にテキサス州オースティンで音楽祭としてスタートした音楽・映像・テクノロジー(インタラクティブ)の祭典で、毎年3月中旬に10日間ほど開催されます。年々規模を拡大しており、今年の参加者は延べ15万人だったとも言われています。

 このSXSWで実力を認められたり賞を取ると、一気にアメリカでの知名度が上がったり、投資家から資金提供を受けてブレイクする企業があるので、スタートアップ企業や海外からの参加者も多いのが特徴です。日本でも有名な「こんまり」こと近藤麻理恵さんが2017年のSXSWにメインの講演者として登壇後Netflixとの契約が決まって一気に全米でブレイクしたり、Twitter社がまだスタートアップだった2007年頃にSXSWをきっかけに急成長しました。実業家版「アメリカン・アイドル」というか、見本市のような側面もあるので、実力を認められたいスタートアップ企業や一攫千金の出会いを求める映画やコンピューターグラフィックス等を学ぶ学生などの姿も多く、エネルギーと夢と野望が渦巻いた熱い空間です。

時代は大きく変わっている

 セッションの数だけでも膨大な数になるので細かい内容は割愛しますが、SXSWの展示やセミナーを総括すると「スター・ウォーズ」や「スタートレック」の世界が現実に近づいてきたな、という印象です。

 展示会ではホログラムの3Dアバターが出迎えてくれ、空飛ぶ車が展示されているなど近未来的。セッションでは「気候変動」「環境問題(SDGs)」「LGBTQ」「トランスジェンダー」「宇宙開発」「VR」「メタバース」「医療」「健康」「サイケデリック」などのテーマがトレンドでしたが、「多様性を重んじ、様々な人種や背景の人が集まって、自分が正しいと思う方法で地球や世界を変えよう」としていることがはっきりと見て取れました。「スター・ウォーズ」や「スタートレック」の影響を強く受けている世代が今一番お金を持っていて決定権もあるので納得ですが、数十年前にSFとして思い描いていた世界も、そう遠くない日に現実になるのかもしれません。

 その一方で、未来に対する建設的な提言が聞けるかと思いきや、過去の歴史や制度を批判するだけで終わっているセッションもありました。社会の「悪者」グループを決めて批判するだけでは根本的な解決策にならないし、「世界や人生はどちらが勝った負けたで判断できるほど単純なものではないのでは?」と感じる討論もあり、過去を教訓として学びの機会に変えていく方が健全なのではないかとか、マイノリティ(少数派)を受け入れること=マジョリティ(大多数)を排斥することではないのでは、などと考えさせられた場面もありました。

変わり続けることの重要性と今後の課題

 いろいろなセッションを見ていくうちに、私たちは後で振り返った時に「18世紀後半の産業革命に相当するか、ひょっとするとそれ以上に大きい変化だったと言われるかもしれない時代に生きているのかも」という思いを強くしました。宇宙での共生の提案など魅力的なテーマもあり非常に刺激的でしたが、なかにはかなり突飛な発想もあり、ここで提案されていることがすべて実現したら、それはそれで戸惑うのではないかとも思いました。

 イギリスの学者ダーウィンは、「It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent, but the one most responsive to change」(強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ)という名言を残しています。

 これだけ世界が大きく変わりつつある現在、変化に適応できる国や人々が生き残る反面、変化についていけなくて取り残される国や人々も必ず出てくるでしょう。適応できる国や人とできない側との二極化が広がった場合、自然淘汰に任せて取り残される人々を見捨てても良いのか。過去を一方的に否定するのでなく、過去の良いところを現在に取り入れて勝ち負けのない共存関係を作ることはできないのか。私たちは日本人として今後どう世界に貢献していけばいいのか……。

 新しい価値観を提起されると実現に伴う課題も明確になり、いろいろと考えさせられることの多い4日間でしたが、大きな変化を迫られても、黒船襲来で開国を押し切られた時の日本のようではなく、しっかり自分の頭で考え、自分の意志で変化を受け入れていける日本人でありたいと思いました。

ランサムはなのワンポイント英語レッスン

Diversity」と「Inclusion」の違い

最近では日本でも「ダイバーシティ」「インクルージョン」と言った言葉が使われるようになっていると聞きます。多様性という意味の「ダイバーシティ」は割とわかりやすいと思いますが、「インクルージョン」は「包含、包摂」などと訳されることもあり、いまいちピンとこないというつぶやきもSNSで見かけます。「インクルージョン」とは多様性や個性が豊かな人が集まった空間で、誰も仲間外れになることなく、全員が等しくメンバーとして尊重されていると感じ、交流・機能するという概念です。日本語の「村八分」とか「仲間外れ」の対極にある概念だと思いますが、日本語にはこれをぴったり一語で言い表す言葉がないということも興味深いです。

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