児童養護施設からの旅立ち

太郎くんの引っ越しを記念する「委託式」

 太郎くんとの交流期間が終盤に差し掛かろうとしていた頃、児童相談所の職員から、太郎くんの「委託式」をやろうという話を持ち掛けられました。(これまでのお話はこちら

 「委託式」とは、太郎くんの生活の場が児童養護施設から我が家へと移り、特別養子縁組をするプロセスにおいて、ひとつの「区切り」を記念する式で、手続き的に言うと、これは「児童養護施設から我が家への措置変更(引っ越し)」。式の場所は太郎くんが生活している児童養護施設。参加者は施設の職員、児童相談所の職員、夫、私、太郎くんです。

 当日、太郎くんは緊張していたのか、それとも自分の置かれた立場があまり理解できていないのか、終始落ち着きのない様子でした。そして夫は、日本語があまり理解できていないこともあって、緊張している様子。私は、太郎くんと夫のことを気に留めながら、式の進行にも意識を向けました。

大勢の子どもたちがいる施設で初めてのこと?!

 まず、児童養護施設の施設長から、特別養子縁組に向けて私たち夫婦が太郎くんと交流を進めていることの説明があり、児童養護施設と児童相談所の職員からの言葉をいただいたり、私と夫、そして太郎くんがそれぞれ心境を話すなど、終始和やかな雰囲気で進行されました。

 最後にはみんなで写真撮影をして、式が終わった後は職員たちと話をしたり、楽しいひと時を過ごしました。その際、職員のひとりが、「この児童養護施設から、子どもを特別養子縁組に出すのは初めてなんですよ」と話してくれました。

 それを聞き、私はとても驚きました。太郎くんが生活している施設には、太郎くんの他にも40人ほどの子どもたちが暮らしていたからです。こんなに大勢の子どもたちがいるのに、「この施設にとって、太郎くんが初めてのケース」とは……。誰にでも様々な事情があるのは百も承知だけれども「日本は特別養子縁組が本当に進んでいないのだなあ」と、考えずにはいられませんでした。

親としての責任が私たち夫婦の手に

 「委託式」の後、太郎くんが我が家で生活を開始するにあたり、児童相談所の担当者から以下の書類を受け取りました。

1)私と夫が我が家で太郎くんを養育していることを証明する、児童相談所長名で発行された文書(措置決定通知書)

2)太郎くんの親権は実親が持っていますが、今後、太郎くんの養育中に実親の判断を仰ぐ必要がある状況に直面した際でも、私たち夫婦は実親に代わって、あらゆる判断を許可する旨の実親の署名入り文書(第6話参照

 職員から書類の説明を受けて、「こういう文書が存在するんだなあ」と感心した私でしたが、帰宅後、この2通の文書をじっくりと一文字ひともじ読み進めました。ときには独り言を言いながら、何度も繰り返して文書を読みました。「これが実母さんのお名前で、こういう字を書くんだなあ」などと、実母さんの想像を膨らませながら。

 この「委託式」を終えて、いよいよ太郎くんとの新しい生活が始まるんだなと身の引き締まる思いがしました。このときは、これからどんな生活がはじまるのか、まだ想像もつかない状態でしたから、本当の始まりはこの後からです。次回もお楽しみに!

<前回までのお話>

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