「家事は女性がする」とは、決まっていない文化もある

日本とアメリカ文化の違い「家事編」

 こんにちは、ランサムはなです。前回は日本とアメリカの「主婦」という概念の違いについてお話ししました。日本のように、エプロンをして掃除や料理などの家事や子育てにいそしむ「専業主婦」はアメリカには皆無か、いても少数派。「主婦像」といったステレオタイプもなく、夫婦は共稼ぎが一般的で、仕事を持たない「専業主婦」は、お手伝いさんを雇えるほどご主人が高給取りであることが多い、という話をしました。

 以前、アメリカ在住のタレントの武田久美子さんが国際離婚をされたと発表したときに、その理由のひとつとして「専業主婦は望まれなかった」とコメントしていたのを見て、やはり私の住むテキサス州だけでなく、アメリカ全体で「専業主婦」という概念が希薄なのだなと実感しました。

 私の場合は、幼い頃から家事全般が苦手で、「主婦」になることを重荷に感じていたので、アメリカには日本のような「主婦像」がなく、女性だからと言って必ずしも主婦になることを求められていないことは喜ばしいことであり、朗報でした。ですから、アメリカ人の夫と結婚することになったときに、警告のつもりで「私は家事が苦手だから、主婦としては期待しないでね」と正直に伝えたところ、夫が「そんなのメイドを雇えばいいじゃないか」と、事もなげに言ったことが今も鮮明に記憶に残っています。アメリカ人にとって、妻が「主婦」であるかどうかというのは大した問題ではないのだなと拍子抜けしました。結局、我が家ではメイドを雇うことはなく、今では夫が家事をしていますが(苦笑)。

おさんどんが必要とされない文化もある

 そんな「主婦失格」の私から見ると、日本の女性は結婚前に花嫁修業と称して料理学校に通ったり、かいがいしくダンナさんの洋服にアイロンをかけたりして、本当に健気で努力家だなあと思います。私の前回のコラムを読んでくださったアメリカ人と結婚している日本人女性が、「私は日本人男性とは結婚しなくて良かったと思っています。おさんどんはできません」というコメントを寄せてくれましたが、私も同感です(注:おさんどん=台所などで働く下女の意)。

 ネットやSNSでは、日本の主婦の方々が、「出来合いのお惣菜で晩御飯を済ませちゃった。手抜きで申し訳ない」とか、「子供のお弁当に冷凍食品ばかり入れる私はずぼらな母親」という投稿をしているのを見かけますが、私から見ると、毎日早起きしてお弁当を作っているだけで立派だと思いますし、出来合いにしろ冷凍食品にしろ、家族のご飯を用意するのは素晴らしいと思います。

 そもそもアメリカの典型的な食事は、肉などのメインディッシュに野菜が2種類程度ついていればよく、日本のように何品もおかずを作る必要がありません。だから品数の多い日本の食卓を任されている日本の主婦は、アメリカの妻や母よりも格段に負担が大きいはずです。それなのに、働く女性や子育て中の母親をサポートするシステムは、アメリカの方が整っているように見えます。

 その例として、仕事帰りにレストランに立ち寄ってテイクアウトの料理を買って帰る女性たちが、アメリカには一定数います(私も自分でほとんど料理をしないので、テイクアウトをよく利用します)。多くのレストランでは「curbside pickup」という「テイクアウト受け取り専用の駐車場」を設け、事前に注文した商品を車から降りずに受け取れるシステムなどを整えています。車で専用の駐車場に乗り付けると、ナンバープレートで車を認識した店員さんが注文した料理を持ってお店から走り出てくるので、お客さんは車に乗ったまま料理の受け取りと決済手続きができる仕組みになっています。初めて見た時は、働くお母さんの負担を少しでも少なくするためのシステムが完備しているんだな、と感心したものでした。また、温かい料理の宅配サービスもかなり充実しているので、それを利用する家庭もとても多いようです。

 テイクアウトや宅配、出来合いの惣菜を利用するときに罪悪感を感じる女性は、アメリカではほとんどいないと思います。「食事を提供してくれるだけでありがたい」と思うように、子供の頃からしつけられているのでしょう。学生時代の私のホームステイ先のお母さんは、いわゆる専業主婦でしたが外食かテイクアウトが多く、家で料理を作るときはメイドさんが作っていました。たまにお母さんが手作りの料理をふるまうと家族全員が大感激して、ありがたくいただきましたが、もちろん「今日も出来合いのお惣菜?」なんて聞く人は誰もいませんでした。

自分らしく生きることなら、今すぐ始められる

 女性が大切にされるのは素晴らしいことですが、私はその価値観を日本に押し付けるつもりはありません。血気盛んだった一昔前なら、すっかりアメリカにかぶれて、「日本もアメリカを見習うべき!」などと躍起になっていたかもしれませんが、一時、日本に戻って10年ほど暮らしてからアメリカに戻って来た今は、それは単なる価値観の押し付けにすぎないと思うようになりました。

 制度自体を変えようとすると、必ず得をする人と損をする人が出てきます。主婦であることに喜びを感じる女性もいますし、日本の女性が素晴らしいことは事実です。日本ならではの文化的な独自性もあるので、もしも日本を変える必要があるのなら、他国を真似るのではなく、日本人が自分たちで考えて、日本に合う変え方を採用しなければ、借り物の価値観で終わってしまうでしょう。物事はそんなに簡単ではないのです。

 それよりも思うのは、私たちは「男性」、「女性」、「主婦」、「母親」などの社会がイメージする役割に縛られて、その役割を演じることに一生懸命になり過ぎてしまう傾向があるということです。「このレッテルが貼られていると有利だから」、「この役割は優遇してもらえるから」などという理由で何かの役割に自分をはめ込むのでなく、自分らしく生きることが大切だと思います。

 制度を変えようとすると時間と手間がかかりますが、自分らしく生きることは、自分の内面を見つめることによって今すぐ始めることができます。そうやって一人一人が自分と向き合い、自分が納得する生き方を探して追求していくことが大切ではないかと思います。

ランサムはなのワンポイント英語レッスン

She/Her, He/Him, They/Their

 最近、SNSなどで自分のプロフィール欄に「She /Her」「He /Him」「They /Their」などの代名詞を指定する人が増えています。「They /Their」というのは、男性・女性の性別枠にとらわれない「ノンバイナリー」を自認する人達が使う代名詞。ご存知のように「They /Their」という単語は、これまでは複数のときにしか使わない単語でしたので、この新表現は翻訳者にとっては悩みの種になることがあります。言葉の変化のスピードが速くなる中、それについていかなければいけないのは、なかなか大変ですよね。

写真で見る 看板・標識・ラベル・パッケージの英語表現ランサムはな著

写真と動画で見る ジェスチャー・ボディランゲージの英語表現』ランサムはな著

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