「おばさん」の認識に見る、日本とアメリカの違い

日本語の「おばさん」、英語だと何という?

 こんにちは、ランサムはなです。暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私が住んでいるテキサス州は連日40℃超えで、砂漠のような暑さ。一歩外に出ると「もわっ」とした熱気に包まれます。熱中症を恐れてか、日中は外を歩いている人もまばらです。私も例にもれず、在宅ワークであることをいいことに、絶賛引きこもり生活を満喫中。ついついすっぴんに半パジャマと言ったラフな(だらしない・笑)恰好で一日を過ごすことが多くなってしまい、鏡に映る自分の姿に「完全におばさんだな……」と苦笑することもしばしばです。たまにはお化粧やおしゃれをして出かけるようにしないと、このままおばさん街道をまっしぐら、となりそうで怖いです(汗)。

ところが先日、アメリカ人の友人とおしゃべりしていた時に、「最近はすっかりおばさんになっちゃって……」と説明しようとして、「ん? おばさんって、英語でなんと言えばよいのかしら?」と、はたと困ってしまいました。

親戚のおばさんであれば「Aunt」ですが、私が言いたい「おばさん」は親族の「叔母」を指すものではなく、40代以降のいわゆる中年と呼ばれる年齢層に多い女性たちのこと。具体的に言うと、強くて(図々しくて)、お節介で(良く言えば面倒見が良くて)、身なりに構わなくなった中年女性のことです。日本人には「おばさん」と言えば一発で何を言っているのかわかってもらえますが、アメリカ人の友人には直訳しても通じないことに気づきました。つまり、アメリカには日本語でいう「おばさん」に相当する言葉がないのです。

アメリカでも一昔前は、美味しい家庭料理を作ってふるまってくれたり、家のこまごまをケアしてくれる優しい中年女性のことを「Granny」とか「Auntie」と呼んでいた時代もあったようです。「ステラおばさんのクッキー」「ジマイマおばさんのホットケーキミックス」などのような商品名があることからも、そのイメージが伝わると思います。ただし、それらの単語には「料理上手なおばちゃん」「肝っ玉母さん」のようなニュアンスはあっても、「身なりを構わない女性」「ふてぶてしい女性」「口うるさい女性」というような失礼な意味合いは含まれていません。

失礼な意味合いが含まれる単語を探すなら、ここ数年よく用いられるようになってきた「Karen」というスラング(俗語)が近いかもしれません。「Karen」とは、どう見ても先方には非がないのに異常に要求が多く、お店などですぐに「マネージャーを出せ!」などと激高する自分勝手なモンスタークレーマーの白人女性を指して使われるスラングです。レストランなどで出された料理を半分以上も食べてから、いちゃもんをつけて全額返金を要求するようなお客さんに対して、「まったくあの客はカレンで……」と従業員たちが陰で話すときに使われたりします。ただし「Karen」は自己中心的でわがままな中流階級の白人女性を揶揄するピンポイントな俗語なので、やはり日本の「おばさん」とはニュアンスが異なります。

結局アメリカ人の友達には「自己主張が激しく、身なりを構わない女性」と説明しましたが、ピンと来てもらえたのかどうか、どことなく釈然としない気持ちが残りました。それと同時に、自分が日本語の「おばさん」という言葉に縛られていたことにも気づかされました。

人生のステージごとの役割で呼び名が決まる日本語

思えば私には、幼少期の頃から、女性は誰もが「少女(10代)→女性(20代)→婦人(母親)(30代)→おばさん(40、50代)→おばあさん(60代以降)」という過程を経て年を取っていくものだという思い込みがありました。例外などなく、みんながそうやって年を取るもの。アラフォーになれば、誰もがオバサンになるのは避けられず、年をとっても魅力的な女性になるなんて無理だと心のどこかで思っていました。古い例えですが、森高千里さんの「私がオバさんになっても」という歌からもわかるとおり、40代を過ぎると(早い人は30代後半から)女性としての価値が下がり、中年化が始まると思っていましたし、その後の人生を想像することができませんでした。

そのような思い込みを持つに至った原因のひとつには、日本語では、人生のステージにおける役割ごとに、女性に対する呼び方を変えることにも関係があるのではないかと思います。

若い女性は「おねえさん」と呼ばれ、主婦は「奥さん」「お母さん」「お嫁さん」、中年女性は「おばさん」、高齢になると「おばあさん」(お姑さん)などと呼び名が変わっていきます。個人の名前を知らなくても気軽に声をかけられるので便利なこともありますが、一生を通じて、何歳に達したらこの役割に就くべきといった暗黙の期待が社会にあり、その役割を演じて期待に応えることが求められているのかなという気もします。

「おばさん」「奥さん」などの役割語に縛られない

周囲のアメリカ人女性を見回すと、実に多種多様です。日本の「おばさん」も顔負けのふてぶてしい女性も少なくありませんが(笑)、その一方で、しっかりとしたキャリアを築き、自立して輝いている女性も大勢います。そういう方々の多くは、日本でいうところの「おばさん」に相当する年齢だと思いますが、「おばさん」という言葉が頭に思い浮かばないほど魅力的です。そのような方々は、「母」とか「妻」である以前に、自分らしく生きることにこだわり、ファーストネームで呼ばれているケースが多いようです。これには強くて凛とした女性が好まれるというアメリカの文化的背景も関係しているかもしれません。

 そのような姿を見ていると、私たちは全員、「おばさん」である前に、ひとりの人間であるという事実をあらためて思い起こさせられます。私たちには一人ひとり名前があり、人格があり、誰とも違う人生があります。さらに「おばさん」という言葉がない言語や社会があるということは、「40代になったら、おばさんにならなければいけない」と決まっているわけではないとも言えます。

役割を与えられることで、責任感や生き甲斐を感じることもありますが、それに縛られてしまうこともあります。アラフォー、アラフィフともなれば、人生も後半戦。ひととき「おばさん」の役割を脱ぎ捨てて、ファーストネームで自分に向き合う時間を持つことも、人生を豊かにするうえで大切なことかも知れません。

ランサムはなのワンポイント英語レッスン

アメリカでは子連れの女性に「お母さん」と声をかけないように
日本では子連れの女性にお店の人が「お母さん」などと呼び掛けることがありますが、アメリカでは「お母さん」はあくまでも子供との関係を表す言葉なので、他の人が使うと「あんたのお母さんじゃない!」という反応をされてしまいます。女性に呼び掛けるときは「mom」「mother」ではなく、「ma’am」などの言葉を使うことをお勧めします。

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