命は永遠ではないから……「今夜、観たい映画」

Vol. 8「マイ・ベスト・フレンド」

 ここ最近、アラフィフ世代の女友達と集まると、恋愛話よりも盛り上がってしまうのが、健康の話。

いつまでも健康でいられるように気を付けていますが、もしも大きな病気にかかってしまったら、どう向き合って行けば良いのでしょうか?

この年齢の女性たちが特に気をつけたい病気のひとつが、「乳がん」。国立がん研究センターがん対策情報センター2010年の調べによると、12人に1人の女性が生涯のうちに乳がんと診断されているそうです。他のがんに比べて比較的若い世代から注意が必要で、罹患割合は30代から増加し、40歳代後半から50歳代前半にピークを迎えることなのです。

 今回は、自分や家族が病気になったときの心構えになるかも知れない作品、『マイ・ベスト・フレンド』(2016)をご紹介します。

「乳がん」と闘う女性と、彼女を心からサポートする親友の女性同士の友情を描いた作品で、監督はキャサリン・ハードウィック。ドリュー・バリモアとトニ・コレットが共演しています。まずは予告をどうぞ。

シリアスなテーマながら、笑いを交えたポジティブな作品

 原題は「Miss you already」。「もう、あなたに会いたくなったわ」というニュアンスです。ご覧いただいた予告編は日本版ですが、アメリカ版の主題歌には、ジョーン・ジェットの「 Miss You Already」が使われています。

 作品は、陣痛に苦しむジェス(ドリュー・バリモア)が、病院の部屋にいる看護婦さんに向かって「殺してー!」、「痛いんだってばー!」と八つ当たりするシーンから始まります。そして、「ミリー(トニ・コレット)を呼んで〜!」と叫ぶのです。

ジェスとミリーが出会ったのは10歳の時。ジェスのナレーションと共に、その頃からのフラッシュバック映像や写真が映し出され、二人の強い絆を感じることが出来ます。

でも、ある日を境に二人一緒の写真がなくなってしまうのです。

映画はソウルメイトであるジェスとミリーそれぞれの人生を大きく変える出来事に焦点を当てています。新しい命の誕生を夫のジャイゴ(パディ・コダイン)と喜ぶジェス。そして、ミリーは……。

乳がん検診の結果の治療

 忙しさにかまけて、しばらく乳がん検診の結果を聞きに行けなかったミリーが乳腺化を訪れると、医者から「悪性の乳がんが見つかった」と言われます。それが体内で転移していないかを検査し、ミリーは化学療法を始めることになります。

そのことを最初に打ち明けたのは、親友のジェス。次に夫のキット(ドミニク・クーパー)でした。子ども達にも漫画を使って自分のことを説明するミリー。

そんなミリーの乳がんの進行は深刻であり、とてもリアルに描かれています。

抗がん剤治療の点滴を受けている間も、ジェスはミリーの側に寄り添います。
数回の治療によって髪の毛が抜けてしまうミリーは、ジェスと共にカツラのフィッティングに行き、お気に入りのカツラを見つけますが、いずれ抜けてしまうのなら剃ってしまった方が良いと美容師がアドバイスします。
鏡の前で変わって行く自分の姿を見つめるミリーの顔に、不安が横切ります。髪の毛は女性の命ですものね……。

やっと化学治療が終わるミリー。そして親友のジェスは、不妊治療に取り組むことを決めます。

ふたりの女性に起きる心身の変化

 ミリーは仕事に復帰し、家族との時間も過ごせるようになります。でも再び乳癌検査の結果を聞きに行くと、化学療法は効いているものの進行を抑えるための最後のチャンスとして、さらなる過酷な選択をせざるをえないことに。

それは両乳房の切除術を受けるということ。ミリーは自分が女性として認められなくなるように感じて、恐れを抱きます。

方のジェスは、長い間の不妊治療の結果、めでたく妊娠。でも、その喜びを病気で苦しんでいる親友と分かち合って良いものか、悩みます。

その後のシーンの中で、観ていて最も辛かったのは、術後のミリーの姿でした。かなり勇気がいるほどリアルで、思わず目を背けてしまいたくなるぐらい痛く、壮絶です。

でも彼女の側でケアをするジェスとの深い繋がり、信頼感、心の寛大さや暖かさに、涙を流してしまったシーンでもありました。ここで、ジェスがミリーに「大丈夫よ」という意味も込めて笑顔を向けるところがあるんですが、そのドリューのスマイルが最高なんです。子役の頃の「E .T.」の名シーンよりも印象に残りました。

善かれと思ってとる行動が、相手を傷つけてしまうことも

 もし、私にも同じことが起きたら、心の傷だけではなく、これほどまでに自分自身をさらけ出せる相手はいるだろうか?と真剣に考えてしまいました。

ミリーはとてつもなく素晴らしい友人に恵まれた、幸せな女性。羨ましいなと感じると共に、私もミリーを支えるジェスのような人間になりたいと願うシーンでもありました。

ミリーの病気への不安が募り、夫が彼女を気遣って開催した40歳のサプライズ・パーティーをミリーが台無しにしてしまうシーンがあります。病人に対して周囲がなんとなく本人を甘やかしたり、腫れ物に触るような扱いをしてしまうことがありますが、病への途方もない当人の不安は、家族との関係や他人の心にも伝染することも……。そんな周囲の苦しさも描かれています。

そして、そのパーティーの夜、ある出来事があって、二人はしばらく距離を置いてしまうのです。

大切な人が身近にいてくれることに感謝したくなる

 しばらくして、ミリーは人生の中で一番悲しく、聞きたくなかった事実を医師から宣告されてしまいます。

そして、ミリーとジェスが再会。やがてミリーも、自らの残された日々を過ごしながら、何が人生において優先すべきことかに気づいていきます。人を愛すること、そして愛されることの大切さを知っていくのです。

ラストは、笑いと涙でエンディングを迎えます。
オープニングにも出てきたジェスの出産シーン。
果たして親友のミリーは立ち会えるのでしょうか?
ミリーとジェスの友情はどうなって行くのでしょう?

作品を見終わった後は、泣いてしまったもののヘビー過ぎず、温もりが残りました。
ここまでストレートに女性同士の友情と、二人でひとりの病に向き合うことを描けた作品は少ないと思います。
共演したドリュー・バリモアとトニ・コレットがこの映画に惹かれた理由も「映画のリアルさ」だったそうです。

私自身、「もし私が病に倒れたら」ということも考えなくてはいけない年齢になってきました。
同時に改めて、親しい人が病に倒れても、この映画のジェスのような存在になれるよう成長して行きたいと思わずにはいられない作品でした。

また、「乳がん」という病についても考えさせられました。
早期発見によって救われた命もたくさんある病であり、私の母も乳癌サバイバーです。
私自身も年に一度のマンモグラフィはもちろん、セルフチェックも欠かしません。
この映画がきっかけとなって、多くの方が乳がんに対する認識を持っていただけることを願います。

では次回もお楽しみに!

マイ・ベスト・フレンド(英題:My Best Friend)

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