働く母にとって最も恐ろしい電話とは

勤務中にかかってきた保育園からの電話

 ある日の午後、会社で仕事をしていると、私の机の上に置かれた固定電話が鳴りました。特に何も考えずに受話器を取ると、

「〇〇保育園からお電話です」

と、太郎くんが通っている保育園からの電話であることを告げられました。

ドキッとして、「太郎くんに何か起きたのだろうか?」「怪我をしたとか?」と焦りながら返事をすると、電話口で保育園の職員がこう言いました。

「太郎くんが高熱を出しています。今は眠っていますが、お迎えにはなるべく早く来て頂きたいです。お願いできますか?」

これまでに一度もこういう状況に陥ったことがなかったので、どう対処していいのか分からず、とりあえず私は「分かりました。なんとか早くお迎えにいけるようにします」と答えました。

受話器を置いて最初に考えたことは、「さぁ、どうしよう……」でした。

会社を私用で早退する申し訳なさ

 まず、頭の中で素早く、その日にやるべく仕事の予定を確認。外部とやりとりを必要とする約束はなかったか、緊急や重大案件はなかったかと考えながら、上司や同僚たちの様子を伺っているうちに、時計の秒針は進んでいく……。「そんなことより、一刻も早く早退する手配を整えなきゃ」と自分に言い聞かせながら、どう上司に切り出すべきかを考えました。

 そして上司の元へ行き、子どもが高熱を出したので迎えの時間を早めて欲しいと保育園から依頼されたことと、このことを心苦しく思っていることを伝えました。

 数秒の間があった後、上司はこう言いました。

 「お子さんはきっと泣いていますよ。待っていますよ。早く迎えに行ってあげてください」

 このときの上司の口調は、とても優しいものでした。私はこれまでに感じたことのないくらいの安心感を覚え、その場に泣き崩れそうになる自分をこらえるのに精一杯でした。

 当時、私は自家用車で通勤していたので、会社から駐車場までの距離は徒歩5分ほどでしたが、「これで迎えに行ける」と思ったら、それまでこらえていた涙が溢れ出しました。「あぁ、恥ずかしい!こんな顔では保育園にお迎えには行けない」と思い、急いで涙を拭いて一目散に自分の車を目指しました。

どう対処をすべきかわからない

 平日の昼間の保育園への道のりは、いつもの夕方のラッシュに比べたら空いていました。それなのに通い慣れた道がなぜかとても遠く感じました。

 ようやく到着した保育園に入って、慌てて太郎くんの姿を探しました。すると教室の奥の隅に敷かれたマットの上に太郎くんが横たわっているのが見えました。そばに駆け寄ると、普段よりぐったりしています。「つらそうだね。でも私がいるから大丈夫だよ。もう心配いらないからね」と声をかけながら、太郎くんを連れて保育園を出ました。

 車を運転しながら、この足で病院に連れていった方がいいのか、それとも家へ帰って寝かせた方がいいのか判断がつかないまま自宅につき、急いで布団を敷くと、太郎くんは倒れるように横たわりました。熱をはかると38.8℃。「とりあえず、このまま寝かせておこう……」と思い、このことを夫に連絡しました。小さな体で辛そうな様子の太郎くんの寝顔をみながら、「代われるものなら、私が代わってあげたい……」と思いましたが、太郎くんが発熱してから私にできたことといえば、「はやく熱がさがって欲しい、はやく元気になって欲しい」と祈ることだけでした。

共働き夫婦の子育て連携

 数時間後に心配そうな表情をした夫が帰宅。そして、共働きの夫婦なら避けては通れない会話が始まりました。

「もし太郎くんが明日、保育園へ行ける状況じゃなかったら、どちらが会社を休み?」

「正直私は、今の仕事の状況で休むのは避けたい……。明日あなたが家にいられる時間帯はある?」

(予定を確認しながら)「うーん、午前中ならなんとかなるかな。きみが遅くても13時半までに帰ってきて、ぼくと交代してくれたら大丈夫かもしれない」

「分かった。それなら私は朝から仕事に行って、午後は時間休を取るよ」

「じゃあ、そうしよう。子どもがいれば、当然こういうこともある。高熱は心配だけど、入院したわけじゃないし、なんとか乗り越えられるよ」

「うん、そうだよね。これまで太郎くんは毎日元気でいてくれて、特に大きな持病もないし、ケガもなかったけれど、これから先もきっとこういうことは何度もあると思う。だから二人で協力してやっていこうね」

 そんな話をしていると、太郎くんが起きてきました。ジュースを与えて熱をはかると37.8℃まで下がっていたので、少し安堵しました。再びコテンと寝てしまった太郎くんの寝顔を二人で見ながら、たとえ明朝に平熱に戻っても、ぶり返す可能性もあるので、明日は保育園を休ませる方向でいこうと決めました。

 翌朝、私が出勤する前に太郎くんが起きてきました。声をかけると、やはりいつもよりも反応が鈍く、食欲もなさそうです。熱をはかると、37.5℃。保育園はお休みです。

 保育園へその旨を連絡し、夫に太郎くんの世話を頼んで私は出勤しました。夫が太郎くんと一緒にいてくれたことで、安心して仕事に集中することができました。

 会社を早退して帰宅すると、夫から「申し送り」を受けました。太郎くんは平熱に戻り、かなり回復。「明日は保育園に行って、お友達と遊びたい!」と言えるほど元気になっていました。翌日には完全に回復し、保育園に戻った太郎くん。こうして私と夫の新米親たちは、何とか太郎くんの初めての体調不良を乗り越えることができました。

我が家の特別養子縁組体験記はまだまだ続きます。次回もお楽しみに~!

<前回までのお話>

【年末のご挨拶】
読者の皆さま

今年も『実はこの子、私が産んだ子じゃないんです 特別養子縁組ものがたり』をお読みいただき、本当にありがとうございます! 読者の皆さまひとりひとりに支えられ、この連載を継続できていることに感謝しております。

私は、いつの日か「特別養子縁組が“特別”ではなくなる世の中になる」ことを目指して、我が家の体験記を発信しています。ひとりでも多くの方に、特別養子縁組のことを知っていただきたいと願っています。

皆さまが穏やかで平和な新年をお迎えできますよう、心よりお祈りしております。
引き続き来年もどうぞよろしくお願いいたします。

2022年12月 とよのぶもも

特別養子縁組 里親制度 情報コーナー

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