母の木の芽時
介護ってなんだろう?

<やまなし介護劇場>
「母、危篤」の連絡を受け、東京から故郷山梨へ飛んで帰って早10年。50代独身の著者が愛する母を介護しながら生活する日々を明るくリアルに綴ります。

とうとう母も始まった?!

 今年、父の命日が過ぎてほどなく、母の様子に変化が現れました。残念ながら、あまり良くない変化です。

 春は自律神経が乱れやすく、身体や精神的不調になる人が増える季節だからか、昔の人はこの季節を「木の芽時(このめどき)」と呼んで注意していたそうです。鬱(うつ)などの精神疾患は現代病だと思われがちですが、いやいや古代からあったんですね。春になって様子がおかしい人を見ると「木の芽時だねぇ」などと言って受け入れる(受け止める)先人のおおらかさが垣間見えます。

 ただ、当事者はそんな呑気な分析などしてはいられません。とうとう我が家でも母の木の芽時、つまり母の奇行が始まったのですから……。

母の時空がゆがんでいる

 母はほとんどの時間を自宅のベットで過ごしていますが、晴れた日には車いすに乗って近所に散歩に行くのがお楽しみ。体が不自由なので、おでかけは極力近場でランチを楽しんだり、近場の神社やお墓参りなどですが、そこにいけば母はご機嫌なので、財布に優しい欲望で助かっています(失笑)。

 そんな中、ベットに寝ている母が、ふとした拍子に「起こして!」「寝かせて!」と言うのを繰り返すようになったのです。しかも疲れ知らずに。母の覚醒は昼間から夜まで続くこともあり、まるで何かに憑りつかれたように覚醒し、母の身体を起こした瞬間に「寝かせて!」と言い、寝かせた瞬間に「起こして!」と言うようになったのです。

 とうとう、わが母も人生の時空がゆがみはじめる晩節……。本格的に認知症が始まったのかもしれません。私も「ほのぼの介護」が永遠に続くわけじゃないと分かってはいましたが、一抹の寂しさは胸に広がります。

やまなし介護劇場 第十九幕 母の木の芽時 イラスト
母の覚醒、ツッコミどころも満載!?

子どものような母の、母になる

 ある晩、私が外出先から帰宅すると、その日、母を介護していた妹が憔悴しきっていました。妹は疲れ果てているのに、母は目がギラギラと覚醒中……。母が「起こして!」「寝かせて!」と妹に懇願するのが止まらず、それは異様な光景でした。

 そこで私は疲れ果てた妹に「木の芽時だね」とつぶやき、介護をバトンタッチ。「さて、どうしたものか」と思いつつ、家族に出来ることはスキンシップしかないだろうと思い、ひとまず母の手を握ってみたのです。

 私は帰宅したばかりだったので、どこか冷静でもあり、ふいに母が可哀そうになりました。母のこの気の毒な状況をなんとかしたいと思い、幼子をあやすように手を握ってみたのですが、これが功を奏したのです。母の手を握り、頭を撫でてあげていたら、ものの10分ほどで母は眠りにつきました。きっと、それまでの長時間の覚醒によって身体も疲れていたのでしょう。心安らかになる方法が見つかり、落ち着きを取り戻すことができたようでした。

 この症状を医学的に分析すると、交感神経が優位になって高ぶった神経が「何か」をきっかけにして副交感神経の方が優位になった……という現象なのでしょうが、その「何か」に正解がないため、世の介護人は悩み苦しむのです。

 我が家の場合、母の娘たちが「母の、母になる」という行動がひとつの処方箋になりつつあります。落ち着いているときには「座っていい? 寝疲れちゃったから」と、普通にお願いしてくれる母なので、覚醒してしまう時はきっと本人も辛いのでしょう。落ち着けば「悪かったね」と申し訳なさそうに謝ってくるのですから……。

 そんな時、怒ったり、嫌味を言わないように気を付けています。そしてもうひとつの処方箋、「大丈夫」と言ってあげます。この「大丈夫」という言葉は人を落ち着かせる魔法の言葉です。いまや会話が嚙み合わないことも多くなっている私たち親子ですが、噛み合わない会話をやり過ごす処方箋として「大丈夫」を多用しています。もともと話が噛み合ってないわけだから、どんなレスポンスでも成立します。ならば心を静める魔法の言葉「大丈夫」をいうことで、チグハグな会話ラリーを続けているほうが楽しいですから(笑)。

 これから先、また処方箋(対処法)を見直す時期も来るのかもしれませんが、今は自分の感情をコントロールする「修行」だと思って母と向き合っていきたいと思います。

介護メモ「大気圧の影響!と受け入れる」

 「木の芽時」は、母の変化を受け入れるために便利な言葉です。考えてみれば季節の変わり目は気圧が大きく変動するので、低気圧になれば雨が降って気分もションボリするし、高気圧なら晴天で気分がいいとも言えますよね。私は免疫学者の安保徹先生や漢方の先生のお話を聞いてから、気分の浮き沈みは「ぜ~んぶ、お空のせいです」と思うようになりました。なかでも安保先生のお話はまるで「生き様」処方箋のようにも感じられたのでご紹介しますね。

書籍はこちら:免疫学者・安保徹氏が語る『病気が治る免疫相談室』

LINE Storeスタンプ好評販売中
おすすめの記事