どうして、ぼくの名字は変わったの?

保育園ではファーストネーム

 太郎くんとの生活を始めるまで、「親」と「子ども」の名字が異なることが、これほど不便であるとは知る由もありませんでした。このことは「里親あるある(第29話)でも書いているので、そちらもご覧ください。

 太郎くんは年長の半ばで我が家に来ました。太郎くんの名字がいずれ変わることは分かっていましたが、名字が正式に変えられるのは家庭裁判所の審判が下りた後です。そのため、太郎くんと私たちの新生活は始まっていたものの、保育園には太郎くんはもともとの名字で通い、卒園しました。その保育園では先生が園児を呼ぶ時も、園児同士でも下の名前で呼んでいたので、名字を名乗る機会が少ない環境でもあり、太郎くんが私たち夫婦と名字が異なることを意識する機会はほとんどなかったと思います。

小学校の入学時は「通称名」

 小学校に入学する際には、在学中に名字が正式に変わる可能性が高かったため、最初から新しい名字を名乗った方がいいだろうと考え、学校に相談しました。

 「通称名」として新しい名字を使えるかどうかを学校に相談したところ、あっさり「問題ないですよ」と言われて少し驚きました。それまで、私たち夫婦が太郎くんの実親ではないことにより、役所や病院などの事務的な手続きがすんなりといった経験がほとんどなかったからです。

 太郎くんが通う小学校では、親以外の血縁関係者が養育者である家庭で生活する生徒などが既にいて、先生方が一般的ではないケースにも慣れていたことで、スムーズに手続きができました。その地域では特別養子縁組が成立した際には役所から学校に自動的に通知が届くため、里親からの報告はいらないことも教えていただきました。

お祝いの「名前入りの鉛筆」

 当時、私たちが住んでいた街では、子どもたちの保育園の卒園祝いと小学校の入学祝いを兼ねて、名前入りの鉛筆が贈られました。

 贈り物は大変ありがたかったのですが、小学校に上がった太郎くんの名字が保育園の時とは異なるため、名字の部分だけを油性ペンで塗りつぶして使っていました。でも毎日使っているうちに、塗りつぶした色が薄くなり、消した名字が見えてくるのです(笑)。見えてきたことに気づいて、太郎くんが寝ついてから私がその鉛筆をナイフで削って塗りつぶしたことも何度かありました。

 また、保育園とは異なり、小学校では先生が生徒を呼ぶ際は「名字にさん付け」というルールがありました。これまでとは異なる名字で呼ばれるようになったことを、太郎くんはどう感じているのだろうかと日々気になっていました。

どうして、ぼくの名字は変わったの?

 我が家では、私と太郎くんが一緒にお風呂に入ります。毎晩のお風呂タイムは、私が太郎くんと向き合う大事な時間です。

 太郎くんが小学校に入学して数週間が経ったある日、いつものように「学校で何か困ったことはない?」と聞いてみたところ、太郎くんがこう言ったのです。

 「どうして、ぼくの名字は変わったの?」

 うっ、今来たか。さて何と説明しよう……(汗)。いつかは話さなければと思っていたことですが、急にこう聞かれて焦ってしまい、様々なことが猛スピードで頭の中を駆け巡りました。

 そして、私はこう答えました。

 「太郎くんは生まれた時は、太郎くんを産んでくれた女の人の名字だったの。何年か経ってから、私とジョンさん(夫)と一緒に生活をするようになって、私たちは家族になったよね。家族は同じ名字がいいでしょう? だから私とジョンさんと太郎くんは同じ名字になったんだよ」

 これを聞いた太郎くんは、「ふーん、そうなんだ」と言って、この話は終わりました。

 でも、この話には当然、続きがあります。その時は、そう言うしかなかったからか、幼すぎて自分の気持ちを説明できなかったのかは分かりませんが、「ふーん、そうなんだ」と言ったものの、納得したわけではなかったのだと思います。

 なぜなら、その後の数年間に何度も「ぼくの本当の名字は〇〇なんだよ」と言い、急に旧姓を使って話しかけてくることがあったからです。太郎くんがなぜそれをしたのかは分かりません。でも私は、太郎くんが「これが自分の本当の苗字だ」と言うのを聞くたびに「僕は自分の意志に反して名字を変えられてしまった」と言っているように聞こえて、とても複雑な思いにかられました。このことは、また別の機会にお話ししたいと思います。

 我が家の特別養子縁組ものがたりはまだまだ続きます。次回もお楽しみに!

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