あの頃に戻りたいなと思うときに。「今夜、観たい映画」

Vol. 5「レディ・バード」

 たまに、ふと学生時代を思い出すことはありませんか? 

 今宵は、あの頃を思い出してノスタルジックな気分に浸たりたい方にお勧めの映画をご紹介します。

 大学進学を夢見る17歳の少女、自称「レディ・バード」。高校最後の1年を通して、家族、友達、ボーイフレンド、自分の将来について揺れ動く彼女の心情をユーモアも交えながら描いています。皆さんもあの頃の自分を思い出しながら、作品を楽しんでくださいね。「レディ・バード」(1997)、まずは予告からどうぞ。

母と娘の深い関係を女性監督が描く

 監督は、脚本家女優でもあるグレタ・ガーウィック。最近の話題作は「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」(2020)。そんな彼女の初監督デビューとなったこの映画では、クリスティ・マクファーソン(自称レディ・バード)役のシアーシャ・ローナンと、ボーイフレンド役のティモシー・シャラメが初共演しましたね。

 この映画は母と娘の関係を見事に描いた作品です。

 あるインタビューで、ガーウィック監督は「母親と娘の関係は男性には分かり難いと思う。もしその人に姉妹がいたら少しは理解出来るかもしれない」と語っていましたが、これを聞いて映画を観ると、まさに私自身とも重なるのです。

 母親という存在は ときにはベストフレンド、姉妹、良き理解者、人生のアドバイザーでもあるけれど 私の場合はときに大喧嘩をしてしまうことも……。ですから、この映画は「これは自分?」と思えるほど共感できました。さすがにこの年齢になってからはありませんが、反抗期の頃はこの映画のシーンのような口論はあったんですよ(苦笑)。

 「母・娘」の繋がりは摩訶不思議。まさにLove and Hate(のような気持ちになってしまうこともあります(もちろんLOVEの方が大きいですが)。

 これをレディ・バードという主人公を通して描いたガーウィック監督の本作を、すべての母親と娘たちに観ていただきたいなと思います。

母と娘はそもそもぶつかりやすいもの?

 本編は予告編と同じく、波の音が聞こえるホテルの部屋の中で、レディ・バードと母親(ローリー・メカートフ)が同じベッドに仲良く向き合いながら寝ているシーンから始まります。これは進学先の候補である大学の見学に行ったときのことです。

 その帰り道のドライブ中、スタインベックの「怒りの葡萄」を聞きながら和やかに会話をしていたと思いきや、大学を選ぶにあたって、家族の経済的状況などを母親が話しているうちに二人ともテンションが上がり口論になります。その挙げ句の果てに、なんとレディ・バードは走行中の車のドアを開けて飛び降りてしまうのです! 破天荒すぎます。

 他にもいくつかそんなシーン出てくるのですが、なぜか母親には感情的になってしまうものなのですよね。ときに女性同士の喧嘩になってしまうことも。

 彼女の父親は自身の病気や仕事の悩みを抱えながらも、彼女の18歳のお誕生日をお祝いし、妻と娘を見守っています。

 ストーリーのテーマだけではなく、のんびりとしたカリフォルニア州サクラメントの風景も素敵です。

進路の選択は、親から巣立つ時期を決めるとき

 カトリック・スクールに通うレディ・バードは高校3年生。この学年になると、SATというテストを受け、その点数に見合った大学を選ぶ大切な時期です。アメリカの高校生は大学を選ぶときは地元ではなく他州の大学を選ぶ学生が多いのですが、家族から離れて行き独り立ちして行く年齢だからでしょうね。それは、子供が母親から離れる時でもあります。サクラメント脱出がレディ・バードの希望なのです。

 私事になりますが、人生の中で私が母親と最も大きな口論をしたのも、この歳だった気がします。
私は高校3年生のときにアメリカから帰国しました。卒業したらニューヨーク周辺の大学に行かせてくれるという約束だったのですが、両親からやっぱり海外はダメだと言われ、「それなら私は大学には行かない!」と、母親と擦ったもんだの大喧嘩。中学・高校をアメリカの教育制度で卒業した場合、文部省(現・文科省)ではそれが認められないため、もしあの時に大学へ進学しなかったら、私は小学校卒業だけとなってしまうところでした。

 レディ・バードとは異なる状況ではありますが、自分の人生とも重なって、この作品は私にとって思い出深く、愛おしく感じる作品です。すべてが新鮮に見えて、なんでも自由になると思っていたあの頃が懐かしく感じます

いくつになっても母親の存在は大きいもの

 では映画のお話に戻りましょう。

 高校でのレディ・バードはかなり変わっていて、ワイルドな生徒。自称が「レデイ・バード」ですしね。カソリック校のシスターの車に、「Just Got Married to Jesus」と書いたド派手な飾りを付ける悪戯をしたり、人工中絶に関する授業の際に、全員の前で突拍子もない発言をしたりと結構、過激。

 残念ながらアカデミー賞主演女優賞はノミネートだけで終わってしまいましたが、彼女を演じるシアーシャ・ローナンの開放感溢れる演技が見ものです。アイルランド訛りを一切封じたサクラメント出身の「レディ・バード」を演じ切ったのも、さすが。エネルギーがはち切れんばかりの瑞々しい17歳を演じています。

 親友のジュリーと演劇部に入ることにしたレディ・バード。そこで出会ったダニー(ルーカス・へッジス)と恋をしますが、ゲイだったことが理由でお別れ。初体験のお相手はとんでもない悪い奴、カイル(ティモシー・シャラメ)でした。

 この年頃の恋愛はピュアーですよね。ただ優しいとかカッコ良い、それだけで惹かれちゃう訳ですが、失恋したときは思いっきり悲しかったのを覚えています。淡い思い出(笑)。

 そして、いざ、高校最後のビッグ卒業イベント、プロムナイトへと向かうレディ・バード! 果たしてどんな展開になるのでしょうか?

 卒業後 サクラメントを離れることになった彼女。映画の最後に、母そしてレディ・バードが取った行動とは?? 少女から大人へと成長して行くこの物語、観終わった後は涙が止まらなくなってしまうかもしれません。

 いくつになっても母親という存在は大きいものです。私自身がこの年齢のときに経験した母とのバトルも大切な人生の通過点。今でもあれがあって良かったと思います。

 この作品を観終わって出てきた言葉がこれでした。

 Love you, Mom’

 ではでは次回もお楽しみに!


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