児童養護施設の外へ出る!いざ2人で公園へ!

太郎くんを連れて半日お出かけに挑戦

 児童養護施設の中での3回の交流を終え、初めて児童養護施設の外へお出かけする日がやってきました(前回までのお話はこちら)。  

児童相談所の担当者から「特定の週の平日の昼間に数時間、太郎くんとお出かけをして欲しい」という連絡があり、私が仕事のスケジュールを調整して仕事で対応ができない夫の分の役割も務めました。まず、子どもが行って楽しめる施設の情報をインターネットで収集。電車で移動すれば太郎くんが喜ぶのではないか等、ない知恵を自分なりに絞ってお出かけの計画を立てました。

急遽、行き先を変更してブランコに乗る

 準備を整えて、太郎くんを児童養護施設へお迎えに行きました。ちょっとドキドキしながら、2人で駅までのお散歩を楽しみ、電車へ乗り込みました。すると、電車に乗っていたひとりの女性が太郎くんに話しかけてきたのです。

女性「あら~、太郎くんじゃない?」
(この女性、太郎くんの名前を知っている、何者だ!?と少し警戒しながら……)「こんにちは。」
女性「私、〇〇(太郎くんが住む児童養護施設の名称)で、調理を担当している鈴木(仮名)と申します」
「あっ~、そうでしたか! はじめまして、よろしくお願いいたします!」
女性「太郎くん、私、〇〇の鈴木さんだよ。私のこと、分かる?」
太郎「うん、分かるよ~!」
女性「特別養子縁組のこと、お聞きしました。」
「そうでしたか。ありがとうございます!」
女性「今日はお出かけですか?」
「はい、初めてのお出かけです。」
女性「太郎くんは外で遊ぶのが大好きだよね? 公園にでも行くのかな?」
太郎「公園に行きたい~!」
女性「この先に△△という駅があって、そこから歩いてすぐの所に小さい公園がありますよ。今日はこの時期にしては少し暑いけど、子どもは公園が大好きだからね。」
(当初の計画から大幅変更になるなと思いながらも)「△△駅で降りてすぐの公園ですね。情報をありがとうございます。そこの公園に行きます!」

 私と太郎くんは鈴木さんに別れを告げて電車を降り、公園の場所も分からないまま歩き始めました。公園がすぐに見つからなかったら、子どもはあまり我慢できないだろうから、「公園はどこ~? ないじゃん!」なんて気分を損ねちゃうかなと心配になりました。そうして心配しながら歩いていると、公園があるじゃないですか! これで一安心と緊張が少し解けました。

太郎「わーい、公園だ~! ブランコに乗りたい~!」
「もちろん、いいよ。乗ってね、押してあげるから~。」

太郎くんはブランコへまっしぐら! 辺りを見回すと、平日の昼間だからか、公園には誰一人いません。「貸し切りだぜ、イェイ~! 思いっきり遊びなさい~!」と私。それにしても、公園で遊ぶなんてウン十年ぶりだな~などと思いながら、私は太郎くんが乗るブランコを押しました。

「私、こんなことするの初めてじゃないかな? もしかして、太郎くんもこんなことしてもらうの初めてだったりして……。太郎くんはこれまでに、自分が独り占めできる大人っていたのかな?」などと、いろいろ考えながら……。

2人でいろいろな話をしながら、ずーっとブランコに乗っている太郎くん。笑い声が絶えず、実に楽しそうにしている太郎くんと共に、私も楽しい時間を過ごさせてもらいました。

「ブランコを降りて、他の遊具で遊ぶ?」
太郎「ブランコがいい。」  

そうして公園で遊んでいるうちに、帰らなければいけない時間が近づいてきました。

自動販売機と太郎くんと私

 公園を後にして駅方面へ歩いている途中で、私はのどが渇いたことに気づき、まずは私より子どもである太郎くんに何か飲ませた方が良いなと思いました。すると視界に自動販売機が現れ、そこで飲み物を買うことを太郎くんに提案。私が自動販売機の前で止まると、太郎くんは自動販売機をじーっと見つめていました。

 私が「これは自動販売機って言って、お金を入れて、ボタンを押すと、飲み物が出てくるんだよ」と説明をし、太郎くんを抱っこして、どの飲み物が欲しいのかを聞き、好きなものを選んでもらいました。そしてお金を入れて、ボタンを押して、飲み物を手に取るという全工程を太郎くんにやってもらいました。それでもなお自動販売機を不思議そ~うに見ている太郎くん。

 私は「そうだ! 私の分を買うのを太郎くんがやれば、自動販売機での経験がもう一度できる!」と思い、太郎くんに「ねえ、私も何か飲みたいから、お金を入れて、ボタンを押して、出てきた飲み物を取り出すのを手伝ってくれる?」と聞いてみました。太郎くんは嬉しそうに、「うん!」と答えて、もう一度、自動販売機で飲み物を買うという工程を繰り返しました。

 私の飲み物が出てきた後も、太郎くんはまだ不思議そうに自動販売機を見つめていました。その姿を見て、「もしかして、太郎くんは自動販売機でものを買ったことがないか、自動販売機自体がどういうものなのか知らないのかも……」と思いました。  

 その後、児童養護施設に戻り、職員に今日のお出かけについて報告をして、私は帰宅しました。そのとき「太郎くんは自動販売機でものを買ったことがないのでしょうか?」と聞こうと思えば聞けたのですが、大したことではないと思い、特にそれについては質問しませんでした。

知らなかったことが、たくさんある

 施設からの帰宅途中、今日のお出かけのことを今一度、振り返ると、太郎くんが自動販売機をじーっと見つめていた姿のことが気になりはじめました。

 太郎くんは今、5歳。生まれてから乳児院と児童養護施設で生活をしていて、家庭で生活をしたことがない、と聞いています。逆に私は家族と暮らしていたので、施設では生活したことがありません。

施設では集団生活なので、誰かが「◯○をしたい』と言っても、その希望が通らないことが多いかもしれません。施設の外にお出かけしても、わざわざ自動販売機で商品を買うこともないのかもしれません。

「もし太郎くんが何かを買おうとしたら、誰がお金を出すのだろう? 職員? それとも、子どもたちは施設からお小遣いのようなものを貰っているのだろうか?」

私は自分が子どもの頃に、両親と一緒にスーパーマーケットへ買い物に行って、母が買い物中に父がお店の外にある自動販売機でよく飲み物を買ってくれたことを思い出していました。それがいつも本当に楽しみで、父とのその時間は特別でした。

「あ~、懐かしいなあ。私はあの時に自動販売機で買い物して、それがどんなものかを学んだんだなあ」と思って、ハッとしました。施設で生活している子どもは、家庭で生活してる子どもが日々の生活において自然に経験することを経験する機会がなかったり、あったとしても極端に少ないのではないだろうか。だから、一般的に「この年齢なら、これくらいのことは知っている、経験している、できる」というような世間一般の常識は通用しないのではないか、などと様々なことが頭の中を駆け巡りました。

 たかが自動販売機。されど自動販売機。育った環境により異なることは、日常生活の様々な場面に現れます。この時の私は、「この年齢なら、これくらいのことは知っている、経験している、できる」という事柄を太郎くんが知らなかったり、経験していなかったり、できなかったりという場面に、今後、予想以上に多く遭遇することになるとは知る由もありませんでした。

 次回は太郎くんが我が家へはじめて遊びに来たときのお話です。お楽しみに~!

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