不登校児の母として
イギリス人生パンク道

九州出身で英国在住歴23年、41歳で二児の母、金髪80キロという規格外の日本人マルチメディアアーティスト大渕園子が、どうすれば自分らしい40代を生きられるかを探してもがく痛快コラム。40代はあと9年。果たしてそれは見つかるのか?!

「不登校」という言葉が持つニュアンス

 先週のことだった。シアターのコンペに出していた私の企画が「通らなかった」という知らせを受けた。その企画は不登校児とその家族の物語だった。日本では全国民が「不登校」という言葉を知っているだろうが、私たち家族が暮らすイギリスではその認知がまだ浅く、社会がそのことを認識してサポートする土壌は形成されていない。

 こう言い切れる理由は、私の上の子どもが3年間にわたって不登校だからだ。  イギリスの有力紙『ガーディアン』の調べによると、イギリスの不登校児は近年増え続け、2023年時点で14万人を超えたという。特にコロナ禍が明けた学校再開時に戻れなかった子どもが多く、うちの子もこの時期から不登校になった。

 イギリスでは不登校のことを「School Refusal」と言う。意味は「学校を拒否する」こと。以前日本で使われていた「登校拒否」という言葉と同様に「子ども側に問題があるから登校を拒否している」というニュアンスの言葉だ。

イギリスにおける不登校児の親への罰金

 私は不登校児の親たちが運営する支援コミュニティー「Not Fine In School」に参加している。ここでも「School Refusal=学校を拒否する」という言い方に問題意識を持ち、社会の理解が感じられる言い方に変えようという運動を行っている。

 この支援コミュニティーでは、不登校児の親が誰にも理解してもらえない出来事をオンラインでシェアしたり、積もり積もった毒を吐いたり、不登校が民事裁判に発展した仲間を応援したりできる。

 そう、イギリスでは不登校が民事裁判になることがあるのだ。学校を休んだ日数分の罰金を科す学校や自治体が多く存在し、罰金は各親につき(母と父がいる場合はそれぞれ別に)1日60ポンド。日本円に換算すると約11000円だ(驚)。罰金の通知が届いてから21日以内に支払えば11000円だが、それを怠ると罰金はなんと「倍額」に跳ね上がる。本来はネグレクト(育児放棄、育児怠慢)をしている家庭を見つけるためのもので(もしくは学校の休み以外に子どもをどこかへ連れ出すことを防ぐため)に作られたのだが、不登校児が劇的に増えた今、この罰金は多くの家庭を苦しめている。

 子どもがずっと家にいるために就労形態を変えたり、仕事を辞めざるを得ない親たちは収入が減り、送られてきた罰金通知には対応できない。それなのに対応できなければ民事裁判に発展し、最大2500ポンド、日本円で約48万円もの罰金を支払わなければいけないのだ。私に言わせれば「ありえねー!ふざけんなー!(怒)」と大声で叫ぶような話だが、イギリスでは現在それがまかり通っている。

我が家の不登校事情

 我が家の不登校事情———。子どものプライバシーを守りたいので「不登校児の母親」の視点から話そう。

 我が家の場合、コロナ禍に様々なことが一気にやってきた。10代前半だった子どもに行き渋りや鬱症状が現れ、日々の暮らしが急速に変わって行った。みるみる変わっていく子どもの様子……。それに気づいて寄り添うべきだったのに、私はそれまでの普通にしがみつこうともがき、末期には「また学校に行ってくれるなら欲しいものを買ってあげる」とまで言ってしまった。そんな母親に失望したのだろう。子どもの状態はさらに悪化した。今考えても後悔と懺悔でいっぱいで、あの時を思い出しただけで動悸と吐き気がする。最初に「学校に行きたくない」と言った日に、「行かなくていいよ。1年でも2年でもゆっくり家で休んだらいい」と言える母親だったら、もっと早く救えたのではないかと思う。

 とにかく、子どもが不登校になって以来、私は「普通だ」と思っていたことを全て捨てた。例えば、2年半ほど続いた昼夜逆転。これにより就寝時間という常識は消え、夕方6時に「おはよう」、朝10時に「お休み」と言えるようになった。

 ちょっと何かが好転しても、次の日はまた違うので、何かを期待したり予想することもやめた。それは子どもには負担でしかなく、親にもいいことは何もなかったから。毎日、その時だけに集中し、自分なりにできる最善の方法で日々をこなすようになった。

 そうするうちに、他人から見ると「子どもに甘すぎる」と思われる子育て形態になった。親なのに怒らないし、無理強いも一切しないが、頼まれたことは全力でやる。そんな「甘々な子育て」は周りを困惑させ、「だから、あなたの子どもは不登校になった」と思った人もいたかもしれない。でも世間がどう思うか、他人はどうしているかを気にする考え方も捨てた。私たち親は、目の前にいる子どもに寄り添いたかったし、子どもが安心して私たちと一緒に暗闇から抜け出せるようにすべてを集中させた。

 ちなみに前述した罰金についても、うちの子の場合は3年前の状態が深刻だったため政府から教育サポートプランを受けられるようになり免除されている。

 私自身も変わっていった。子どもが不登校になる前までは、なんとなくいい感じに「お母さん」をしていた私だったが、自分の傲慢さや愚かさに気づいて猛省し、子どもに謝罪した。以来、子どものありのままを受け入れて信頼し、前よりもどんと構えられる日が増えた。自分比で言えば、「今までより少しだけいいお母さんになれた」と思う。

不登校児と母を描いた短編アニメ

 今回コンペで選ばれなかった私の企画は、不登校児とその家族の物語を描いた自主製作短編アニメ「AMY(エイミー)」を演劇にするというものだった。「AMY」は不登校コミュニティーでシェアするために2022年のクリスマス時期に作ったアニメーション。イギリスではクリスマスには家族や親族が集まるため、私がその時期に感じていたことや同じような境遇の人たちが呟いていたことを不登校児の母親「AMY」を通して表現した。

 これをコミュニティーで発表した時は、メンバーも私も泣いた。ここでもシェアしたくて日本語訳をつけたので、お時間があればぜひ(↓)。

短編アニメ「AMY(エイミー)」作・大渕園子

 今回コンペで落選したことをきっかけに今、私は燃えている。この作品を必ず形にして、イギリスのどこかで発表したい。不登校児とその家族への理解とサポートをイギリスでも広めたいから。

 3年の時を経て、今うちの子どもは前を向いている。道のりは長いけれど、家族も今が一番、団結していると思う。「何があっても最後に笑えればよし!」。明日はどうなるか、それはわからないけれど、今そう思えるのはとても嬉しい。

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