
九州出身で英国在住歴23年、42歳で二児の母、金髪80キロという規格外の日本人マルチメディアアーティスト大渕園子が、どうすれば自分らしい40代を生きられるかを探してもがく痛快コラム。40代はあと8年。果たしてそれは見つかるのか?!
私の90年代ファッションの再評価
今年の夏、私は実家の整理を兼ねて日本に一時帰国した。押し入れを開けると、90年代後半に夢中で着ていた服が山のように出てきた。私の95年から99年くらいの服と言えば、ピタTやスーパーラバーズ似のキャラプリント、ヴィヴィアン・ウエストウッドの類似品などである。これを着て街を歩いていた頃のことが懐かしかった。
子どもたちが着るかもしれないと思い、Tシャツやジーンズの一部は大きなスーツケースに詰めてイギリスへ持ち帰ることにした。スーツケースには収まりきらなかった20着ほどを帰国前日にブックオフに持ち込むと、5着には数百円から千円ほどの値段がついたが、残りはすべて「1円」。切ない気持ちになって、「思い出の服を1円で手放すくらいなら」と手放すのをやめ、それもなんとかしてイギリスへ持っていくことにした。
私の着てきた日本の90年代の服は、今のイギリスの若者には新鮮で価値があるものに見えるかも知れない。そう思って、イギリスに帰国後、試しにVinted(日本でいうメルカリのようなアプリ)に出品してみた。すると、二日も経たずに「1円」と査定された95年製のピタTが2400円で売れた。まるで私の90年代ファッションが、時を経てイギリスの若者に評価されたようで嬉しかった。私は興奮して「1円が2400円になった~!」と家族に自慢した。
再評価がもたらした新発見
すると、17歳の息子がそれに興味を示した。3年半の不登校を経て、去年からアートカレッジに通い始めた息子は、ようやく友人もでき、社会に少しずつ歩み出したところだった。私の話を聞いてすぐにVintedのアプリをダウンロードし、自分がこの数年チャリティーショップ(寄付された衣類や雑貨を安価で販売し、その利益を慈善活動に充てる店)で買い、今はもう着なくなった服を次々に出品し始めたのだ。
驚いたのは、そのセンスとスピード感である。服の写真を撮り、プロフィールを整え、商品説明は若者の心を動かすほど巧み。最初の一着が売れた時には飛び上がるほど喜び、二着目からは「また売れた」「5分で売れた」と軽やかにこなしていった。気づけば私は「うちの息子にはファッション・マーケティングやブランド・マネージメントに通じるような才能があるかも……」と親バカ心を膨らませていた。
考えているだけでは育たない
息子は誰と競うこともなく、小さな画面の中で世界とつながっていた。気づけば、わずか5日で掲載した10点をすべて売り、1万5千円ほどの売り上げを作った。取引を通して買い手とやり取りをする経験も積み、息子の雰囲気が少しずつ変わっていった。目に見える変化というよりも、内側からじんわりと自信が灯っていくような感じだった。
息子にとって、これは単なるお小遣い稼ぎではない。不登校の間は事あるごとに、「自分には仕事なんてできない」「お金を稼ぐ未来なんて見えない」「自立して生きていけない」と口にしていた。そういう言葉を聞くたびに、私の胸は締め付けられた。けれど今、息子は自分の力で初めてお金を生み、自信を手にしている。3年前には想像すらできなかったものが、思いがけない形で目の前に現れたのだ。
これからの未来がどうなるかは、まだ誰にも分からない。けれど、確かなのは彼が自分の足で未来への一歩を踏み出したことだ。自信は考えているだけでは育たない。自分が動いた瞬間に初めて芽を出すのだと、息子から教わった気がした。
