第6話 食べることは、生きること

お腹が空くと機嫌が悪くなる人

テレビ業界で働き出した修業時代、何人かの男性スタッフから言われて驚いたことがある。 

「タガミさんって、お腹が空くと機嫌が悪くなるよね」

そんな自覚がなかったので、びっくりした。

「ほんと?」 「うん、みんな言ってる(笑)」

私は一番下っ端のADだったのに、周囲に気を遣わせていたとは少々恥ずかしい……(苦笑)。思い返してみると、お昼を過ぎて撮影している時などは、「食べてからやろうよー」という心の声が自然と(しかも明らかに)顔に表れてしまっていたのだろう。

でも、自分がディレクターになると、そこは違ってくる。責任という重圧がかかってくるから、台本を書くようなひとり作業の時は、食べるのも寝るのも忘れてやってしまう。まぁ、それは締め切りまで時間があっても、ギリギリまでやらない私の悪い癖も関係しているけれど。

NHK『やまと尼寺 精進日記』を担当して

 ディレクターになってからいろんな番組にかかわらせてもらったが、2017年~2020年までは、NHK『やまと尼寺 精進日記』という番組をやらせて頂いた(編集部注:『まっちゃんの暦あそび』の著者まっちゃんが長年出演していた番組です)。

   奈良・桜井市の山の上にある音羽山観音寺で暮らす、お料理上手なご住職たちのスローライフを紹介する番組で、私が担当していた頃は毎月1本の新作を放送していた。自分の担当月が決まると、その2か月前から題材を探しに奈良の尼寺まで泊まり込みで出かける。東京から新幹線で京都へ向かい、近鉄電車に乗り換えて奈良へ……。その時が「ひとり駅弁」を堪能するチャンス! その日の駅弁は東京駅で吟味するか、もしくは京都駅で駅弁を買って近鉄電車で食べることが多かった。

「柿の葉寿司」の入った駅弁(右)とNHK『やまと尼寺精進日記』の舞台、   音羽山観音寺の大いちょう
NHK『やまと尼寺精進日記』の舞台、音羽山観音寺の大いちょう(右)

奈良といえば「柿の葉寿司」

 奈良といえば、郷土料理の「柿の葉寿司」が有名だ。海のない奈良では昔から魚を長持ちさせる方法として、抗菌作用に優れた柿の葉で寿司を包んできた。

 番組に何度も出演頂いた、尼寺のふもとに住む潤子さんは、柿の葉寿司の作り方を小学校へ教えに行っていた。それを知り、ぜひ番組で紹介したいと思った。でも、「柿の葉寿司」といえば、サバやタイやサケが定番だ。精進料理では魚は使えないから「どうしたものか……」と思っていたら、尼寺で食べる柿の葉寿司は、「いぶりがっこ」や「ミョウガ」、「シイタケ」などに代わると知って驚いた。そんな柿の葉寿司を食べたのは初めてだった。

 みんなでワイワイおしゃべりしながら、柿の葉をまるでキャラメルの包み紙のようにして寿司を包んでいく作業は楽しかった。いつもは緑の柿の葉も、秋になると黄色や赤に色づいた葉がお目見えする。そんなカラフルな「柿の葉寿司」がずらりと並ぶのは、目にも楽しい。そして、葉を開けるまで中身が分からないのもワクワクする。

音羽山観音寺で作った柿の葉寿司と潤子さんが差し入れてくれた柿の葉寿司
音羽山観音寺で作った柿の葉寿司(左)潤子さんの差し入れてくれた柿の葉寿司(右)

 ちなみに尼寺は、潤子さんの家から40分くらい山道を登っていったところにある。たとえば台風が来ると山を容易に下ることができず、お寺の中で台風が過ぎるのを待つしかない。

 私も取材中に台風に遭遇して家に帰れなくなったことがあるが、そんな時でもご住職は慌てない。停電になる前にお風呂に入り、発電機を用意して、何日間か食べられるように大鍋いっぱいのおでんと腐りにくい酢飯のお寿司を用意する。ここでもお寿司が大活躍だ。

 「半年くらいは何も買わなくても食べていけるのよ」とご住職がいうように、

お寺では保存食を大量に常備している。しかも、それはインスタントの非常食ではなく、自分たちで育てたシイタケや貰った大根、バナナなどを干した乾燥野菜たち。これが山で暮らす知恵なのだ。

 食いしん坊のご住職の口癖は、「食べることは、生きること」。そう、人間が元気に生きていくには「食べること」が一番大切なのだ(と、AD時代の私に言ってやりたい)。

NHK『やまと尼寺 精進日記』の音羽山観音寺で作った柿の葉寿司 

尼寺の楽しいお寿司の非常食

今月の駅弁紹介:奈良の「柿の葉寿司」

尼寺の取材を終えて近鉄電車で京都に着く時、最初に目に飛び込んで来るのが

「柿の葉寿司」の売り場だ。東京に戻る時にお土産として購入することも多かった。魚が定番の柿の葉寿司も好きだが、私は欲張りなので変わり種がいろいろ入ったものを試したくなる。カモや大根もなかなかいい。いつ食べても間違いないのが、柿の葉寿司だ。

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