第2話 女性がお嬢と呼ばれた時代

女性スタッフは「お嬢」だった当時の現場

 テレビ番組などの国内撮影ロケの移動手段というと、車か飛行機、もしくは電車だが、たくさんの機材を持って電車で移動するのは至難の業。たいていは撮影部から「ロケ車か飛行機にして」と言われることが多い。だから、私が駅弁を食べられるチャンスは、ロケ前の打ち合わせにひとりで出掛けて行く「ロケハン」の時に限られている。

 今でこそ女性スタッフは珍しくなくなったが、私が映像業界に転職した30年前は、女性はまだ少なかった。思い浮かべる先輩女性といえば、酒、タバコ、麻雀は男性に負けず劣らず豪快だった。そして、偉いプロデューサーのおじさんたちからは、「お嬢」と呼ばれていた。私もそう呼ばれることがあったから、たぶん男性社会だった当時の映画制作の現場では、女子はお嬢さん扱いだったのだろうと想像する。この時、「お嬢」と呼ばれるのは、美空ひばりだけじゃないんだってことを初めて知った。

忘れられない最初のポカ

 私は女子高、短大育ちののんびりした女子だったので、たぶん最初にロケ現場に出された時は、監督もカメラマンも私をどう扱っていいかわからなかったと思う。同期の男子は怒鳴られているのに、私はわりと気を遣われていた。編集作業が始まると会社に泊まり続ける監督から、「女だから徹夜させるわけにはいかないしなぁ」と言われたこともあった。ちっとも男女平等ではなかったが、私はそれを受け入れていた。どう頑張ったって男性みたいに重い機材は持てないのだから、「私のやれる範囲でやるしかない」というスタンスで仕事をしていた。

 当時、アシスタント・プロデューサー兼助監督だった私の主な仕事は、撮影スケジュールとロケ費の管理。男性スタッフたちと同じ速さでご飯を食べ、ひと足先にみんなの食事代を支払って領収書を貰うのも私の仕事だった。

 忘れもしない最初のポカは、「ごちそうさま~」と言いながら支払いをせずにスタッフと一緒にお店を出ようとしたことだ。怖い照明さんから、「お前はそこまでバカか」と言われたのを思い出すと、今でも恥ずかしい。

 それでも元来の好奇心旺盛な性格の方が勝ったのか、撮影現場で見るもの聞くものすべてが面白くて抜けられなくなった。そして、それが今に至る……。

ロケ撮影の写真 ロケ先ではいつも女性ひとり
地方ロケでの撮影の様子。ロケ先で女性スタッフは自分だけという頻度多し

女性ひとりでも平気、なのか?

 今では「女性だから特別扱い」という現場は皆無だ。でも、スタッフの数は今でも圧倒的に男性が多い。私が地方ロケに行くときは、女性は私ひとりというのがほとんどだ。

 以前、ある原発の撮影で白い防護服を着せられて中に入った時、そこで働いている男性たちが一斉に私を見て振り返ったことがあった。原発の中には私以外女性はいなかったからだ。その異様な雰囲気を感じとった監督から、「これが逆に、大勢の女性の中で自分ひとりが男だったら耐えられないなぁ」とボソッと言われたのを憶えている。

 そうか、女性はそういう経験を歴史の中でずっとしてきたから、ひとりでも平気なのか? つーか、私だって男性の中でひとりで働くのは嫌だけれど、しょうがないじゃんねぇ、と今も思っている。 

今月の駅弁紹介:夏の駅弁

駅弁の写真 湘南の玉手箱
大船軒「湘南の玉手箱」(2018年夏)

 忙しいロケハン時、駅弁は時間短縮にもなるので重宝する。夏になると、あっさりした酢飯の駅弁を選ぶことが多い。今はなき「湘南の玉手箱」という駅弁は、鯵の押し寿司で有名な大船軒のもの。かつて湘南に住んでいた頃、疲れて夕飯を作りたくない時は、東海道線のホームでよく鯵の押し寿司を買って帰った。だから、私にとっては旅先での駅弁ではなかったのだけれど、「湘南の玉手箱」に出会った時は、ネーミングやパッケージに惹かれて即買いだった。二段重ねのフタを開ける時、まさに煙が出てくる玉手箱のようでワクワクした。食後のデザートにミニ大福がついているのも嬉しかった。でも、今はもう売られていないらしい。大船軒さん、また楽しい駅弁を作ってください!

駅弁の写真 京都といえば
鱧と鰻の駅弁(写真左)。京都のだし巻き玉子と牛肉のしぐれ煮弁当(2018年夏)

 駅弁を選ぶ時は、他とは違う「付加価値」が欲しくなる。たとえば京都の駅弁には、お決まりのだし巻き玉子と牛肉のしぐれ煮が多いけれど、夏になると旬の「鱧(はも)」がお目見えする。駅弁に鱧なんて、ちょっと贅沢な感じがして、夏にしか出会えない付加価値を感じてしまうのだ。

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