新米ペアレンツを支えてくれた職員さんたち

児童相談所による継続サポート

 太郎くんの生活基盤が我が家に移った瞬間から、「そして、新生活は何もかもすべてスムーズに進んで行きました」とはいかないのが現実です(笑)。今回は新米ペアレンツ(私と夫)が子育てにつまずく度に助けていただいた児童相談所と児童養護施設の職員さんの支援についてお話しします。

 特別養子縁組において、児童相談所を通して子どもを紹介された場合、戸籍上の子どもになるまでは基本的に児童相談所の職員がその子どもの「担当」になります。措置変更(子どもの生活の場が児童養護施設から里親宅へ変更となること)後、我が家の場合は児童相談所だけでなく、太郎くんが我が家に来るまで生活をしていた児童養護施設との関わりも継続してありました。

 太郎くんが我が家で生活するようになってから、児童相談所とのやり取りの方法は以下の三つでした。

  • ひと月に一度、児童相談所の方から事前にいただいた専用用紙に太郎くんの日々の様子を記入して提出
  • 電話
  • 家庭訪問

 月一度の報告には、子育てで困ったことや太郎くんの成長を感じられたこと等を書いて提出していました。私はフルタイムで働きながら子育てをしていたので忙しい毎日でしたが、この報告書のおかげで必ず過去1カ月の生活を振り返る時間を持つことができ、私にとってそれは大切なひとときとなりました。

 月一、二度ほど担当職員さんから電話があり、「頂いた報告には〇〇でお困りとありましたが、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?」と言った感じで直接お話しできたので、その時にアドバイスを頂いたり、私の悩みを聞いて頂いて心が軽くなることもありました。

 家庭訪問時は太郎くんを交えた家族全員と担当職員が話しましたが、ときには職員が太郎くんと二人だけで話すこともありました。

児童養護施設の養育担当者、田中さん

 太郎くんが育った児童養護施設からの継続支援にもたくさん助けて頂きました。こちらの施設で私たち家族を担当してくださった職員は田中さん(仮名)。太郎くんの養育主担当だった方で、生活基盤が我が家に移ってからも電話と家庭訪問でサポートしてくださいました。

 太郎くんが我が家に来てから最初の数カ月は毎週のように電話があり、日々の生活における様々なことを報告して、そのつど相談しました。初めての子育て、それも5歳児、しかもこれは自分たちが望んだこと……。様々な壁にぶつかりながら手探りで進む日々の中、田中さんが常に「何かありましたら、本当にご遠慮なくいつでもご連絡下さい」と励まし続けてくれたことが、私たち新米ペアレンツにとってどれだけ心強かったことか……。そのお言葉に甘えて何度となくお電話させていただきました。

 田中さんによる家庭訪問は、最初の半年ほどは月一度の頻度で、おひとりの時もあれば、他の職員さんと一緒にいらっしゃることもありました。

私たちが知らない太郎くんの5年間

 児童養護施設は太郎くんが生まれ育ったところ、つまり実家のような大切な場所です。それ故、田中さんの家庭訪問の際は太郎くんと二人だけの時間も過ごして欲しいと考え、私たち夫婦は毎回、途中で席を外しました。

 太郎くんが我が家に来たのは5歳の時ですから、私たち夫婦は児童養護施設で育った5年間のことを知りません。その「知らない5年間」とどう向き合っていくか。そことの付き合い方を、試行錯誤しながらであっても必ず見つけ出していくことが、特別養子縁組の子育てに大きく影響すると思います。

 私と夫の基本的な考え方は、我が家に来るまでに太郎くんが培かったことをリスペクトすること。それが我が家流ではないからと言って否定したり、直させるのではなく、それらがあるからこそ今の太郎くんがいると尊重し、そこに「加える」という形でしつけをしたり、教育していきたいと思っています。

 特別養子縁組をすることに決めてからというもの、各所の職員さんたちのお話を詳細に聞きメモを取って夫婦で話し合ったり、講習に参加することはもちろんのこと、図書館に通って児童心理や里親体験記、社会的養護に関する本を読み漁って勉強しました。そうして勉強しながら子育てをしていく中で、私たち夫婦が最も大切に取り組んだことは、太郎くんに「自分は愛されている」ということを心でも肌でも感じてもらうことでした。

 子どもの年齢が低いほど、子どもにとって親は絶対的な存在であり、すべてです。子どもにとって親とは「何があっても絶対に見捨てられることのない存在」。でも太郎くんの場合は、人生の最初の5年間、つまり最も親を必要とする時期に親が居なかったのです。親の不在をできる限り埋めてくれたのが、田中さんをはじめとする職員の皆さんで、献身的に太郎くんをサポートしてくださいました。けれども、それでも太郎くんは「自分は愛されている」となかなか感じられずに過ごしてきたのではないだろうか、流す必要のない涙をたくさん流したのではないだろうか……。この想像がたとえ現実を異なっていたとしても、太郎くんが「自分は親から愛されている」と感じてくれるように育てようと夫婦で決めて、これを指針にしています。

 多少の考え方の違いは何にでもあり、習慣の違いも誰にでもあります。私たちが幼い太郎くんから学べることもあるはずです。私たち夫婦が知らない5年間を心からリスペクトして、その上に新しい生活を積み上げていこう——そう考えてから「加えていく」という子育てのスタイルに落ち着きました。

 我が家の特別養子縁組体験記はまだまだ続きます。次回もお楽しみに!

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