
九州出身で英国在住歴23年、42歳で二児の母、金髪80キロという規格外の日本人マルチメディアアーティスト大渕園子が、どうすれば自分らしい40代を生きられるかを探してもがく痛快コラム。40代はあと8年。果たしてそれは見つかるのか?!
困難な状況を前にどう考えるか?
先日、妊娠中の友人を手伝うためアメリカを訪れた。その帰り道、ワシントンDCからアイスランドの首都レイキャビクで乗り継いでイギリスへと帰る旅程だった。ところが、最初の便が二時間以上も遅れて、私は乗り継ぎに失敗してしまったのだ。
レイキャビクの空港では苛立つ乗客たちがカスタマーサービスの前に列をなし、不機嫌が充満し、不満の声が飛び交っていた。数年前なら私もその乗客たちと同じだったはずだ。でも、そのときの私の心はなぜか弾んでいた。
1年ほど前から私は、何か困難な状況に直面したときに「これは何か意味がある出来事かもしれない」と考えるようにしているからだ。そう考えるだけで、精神的に落胆の底に沈まずに済む。私なりの思考トレーニングのようなものだ。 レイキャビクの空港で私の頭に浮かんだのは、憧れ続けていた「ブルーラグーン」だった。アイスランドの地熱を活かした幻想的な温泉で、一度は訪れてみたい場所だったが、物価の高さを理由に現実的な旅行の選択肢には入れられなかった。だから私はそのときにこう思ったのだ。
「これは私にとって今世紀最大のチャンスかもしれない」
いざ、ブルーラグーンへ。勝手な解釈かもしれないが、私はワクワクしながらカスタマーサービスの列に並んだ。
乗り継ぎに失敗してブルーラグーン
結果として、アイスランド航空が一泊分のホテルと食事、翌日の振替便を手配してくれた。ありがたい話である。
用意してもらったホテルに到着した私はすぐにタクシーを呼び、ひとりでブルーラグーンへ向かった。車で30分もかからなかった。そして目の前に広がった光景に息をのんだ。青白く輝く湯けむり、荒く黒い溶岩、静寂。まるで別世界だった。幻想の中に入り込んだような美しさに心が震えた。青みがかった乳白色の湯に身を沈めたとき、「あのとき空港でポジティブに考えたから、今こうしてここにいるんだろうな」と思った。

思考のトレーニングだと考えてトライしてみたら……
こうした心の持ちようが身についたのは、ここ1年ほどのことで、それまで私は困難に直面すると感情が大きく揺れ、自分を責めたり、未来を悲観したりしていた。子どもの鬱や不登校、自分自身の鬱の兆候……そのたびに立ち止まっては、暗いトンネルに迷い込んだ。
でも、あるとき気づいたのだ。「ネガティブな想像はネガティブな現実を呼び寄せてしまう」ということに。どう考えても自分はそれを続けている。それをやめるために、せめて「この出来事(困難)には、何か意味があるのかもしれない」と、意識的に想像してみようと決めた。この思考のトレーニングがいつでも完ぺきにできているわけではないが、一年前より確実にできるようにはなってきた。
例えば、数時間かけて制作した映像作品のファイルが突然消えてしまったことがあった。以前なら相当落ち込んでいただろう。でも、そのときは「これは、もっと良い作品を生むための余白かもしれない」と自分に言い聞かせた。実際、作り直した作品は前よりも洗練され、しかも一度目より早く完成した。
また、先々月には毎年あった仕事が突然キャンセルされ、収入にも大きく響いた。でもその時も「これはもっといいことが起こる前兆かもしれない」と捉えてみた(そう言いながら冷汗をかいていたが)。すると1週間後、ご無沙汰していた別のクライアントから舞台デザインの仕事が舞い込んだ。キャンセルされた仕事とは同時にはこなせないボリュームだった上、その仕事のおかげでデザインを完成させた後に日本に里帰りする時間まで確保できたので、両親といい時間を過ごすことができた。
すべての困難が「もっといいことが起きるため」とか、奇跡に変わるとは限らないかもしれない。でも辛いことが起きたとき、それには「何か別の意味があるかもしれない」と信じてみることが、私にとっては精神的な救いになっている。救いというのは大袈裟かもしれないが、少なくとも笑顔になれる自分の未来へ導いてくれる。
もしも今、何か困難なことが起きて落ち込んでいる人がこれを読んでいるなら、こう考えてみてほしい。その出来事には「もしかすると思いがけないギフトが隠れているかもしれない」と。
