
『この子、私が産んだ子じゃないんです』第2章は、太郎くん(ももさんの息子くん)が、ももさん夫婦の戸籍上の子どもになってからのお話です。それまでのお話(第1章)は著者アイコンをクリックしてエピソード一覧へ!
日本で特別養子縁組をした息子の初渡米
我が家は国際結婚です。夫婦で日本で暮らしているときに太郎くん(息子)と特別養子縁組をしたので、夫側の家族に息子を合わせる渡米はどのタイミングがいいものかと以前から考えていました。
そんな中、夫の妹の結婚式が決まり、「これ以上の機会はない!」と渡米を即決。結婚式に参加することに加え、アメリカ在住の私の弟のもとと、私が以前住んでいた州も訪問することにしました。息子にとっては初めて訪れるアメリカです。親としては見せたいものや連れて行きたい場所がたくさんありました。
日程と行程を決め、私と夫はそれぞれの職場に休暇申請をし、航空券とレンタカーを手配して……と、やることだらけでした。アメリカ行きが現実的になってくると、自宅で世界地図を広げて息子にアメリカの場所を見せたり、「日本が昼間の時間帯は、アメリカでは夜なんだよ」と時差の話をしたり、日常会話にもアメリカに関する話題が増えていきました。
当時は、息子と一緒に生活を始めて2年が過ぎた頃でした。それまでにも車や列車で国内旅行をしたことはありましたが、飛行機で出掛けたことはなく、しかも太平洋を越える移動は息子には初体験。そこで家族全員(つまり3人)で「小学2年生が太平洋を越える機内で快適に過ごす方法を話し合う会」を開催し、「機内持ち込みのリュックサックの中に何を持って行きたいか?」などを相談しながら、息子のお気に入りのおもちゃや本などを選びました。
日本を出発する前の機内で異文化体験
そして、その日がやって来ました。まずは日本の国内線を乗り継いで首都圏へ。私が3人掛けの座席を指さして「どの席がいい?」と息子に聞くと、即座に「窓!」。小さな頃の私と同じ答えを聞いて嬉しくなりましたが、初めて飛行機に乗る息子は興奮、楽しみ、不安など様々な気持ちが入り交ざったような表情をしていました。
国際線に搭乗して機内を見渡すと、世間的には平日だったのでほとんどの乗客は大人。息子のような小学生以下の乗客は3〜4人ほどでした。私たちが利用したのは米系航空会社。出発前にはアメリカ人の客室乗務員がかわるがわる息子のところにやってきて、日本人にはない陽気さで息子に「かわいいね!」と声を掛けてくれたり、挨拶がてらにハグやキスをしてくれました。その嵐が収まった後、息子が言ったことは「飛行機に乗ると、ぼくはお姉さんたちからハグやキスをされるんだね」。日本を出発する前の機内で既に異文化体験をしていました。
国際線でも息子は窓側席。座席についている自分専用の画面モニターが気に入り、すぐに観たい動画を見つけて画面にくいついていました。離陸してから数時間後には眠りについて、目覚めたのは着陸する直前。もともと手がかからない子ですが、初めての国際線での移動も全く手がかかりませんでした。本当に親孝行な息子です(笑)。
英語での入国審査に臨む8歳児
アメリカに着陸して最初の関門は入国審査です。夫がアメリカ国籍であり、子ども連れだったため、係員の方が私たち3人を「アメリカ国籍保持者」の列へ案内してくれました。
私たちの順番になり、夫が入国審査官に挨拶をしながら3人分のパスポートを提示しました。入国審査官の窓口の高さは、大人にはちょうど良い高さでしたが、まだ背が低かった息子の姿は審査官からは見えません。すると審査官が「私の手元には3冊のパスポートがあるけれど、見えるのは2人だけだなぁ」とわざと息子に聞こえるように言いました。すると息子は「ぼくはここにいるよ。ぼくのことを忘れないでー!」と伝えるように手を挙げて振り、審査官に合図を送ると、「おー!とても大きな手が見えたぞ!誰だ?」と審査官。息子が自分から審査官の顔が見える位置まで数歩移動すると、審査官は「ぼくの手元にあるパスポートを見ると、君の名前はタロウと書いてある。それは正しいか?」と息子に聞き、息子は日本語で「うん!」と自信満々に答えました。
私と夫は出会った当初からどちらかというと英語で話す方がコミュニケーションがとりやすかったため、自然と「家の中では英語」を使い、「家の外では日本語」を使うという環境が出来上がっていました。息子は我が家に着た時から約2年間にわたり、家の中で常に英語を聞いていたので、初めてのアメリカ旅行の時点で息子の耳は完全に英語に慣れており、審査官の言葉を聞き取ることは全く問題ありませんでした。
少々脱線しましたが、入国審査の話に戻します(笑)。
審査官「タロウ、アメリカで一番、何をやりたいんだ?」
息子「フライドポテトをたくさん食べたい!」と思いっきりの笑顔で回答(これも日本語で発言したため、夫が審査官へ英訳)
審査官「アメリカには君が食べきれないほどたくさんフライドポテトがあるぞ!」
アメリカ人の大人とのやり取りに動じることなく、恥ずかしがる様子もない息子の姿を見て私は少し驚いたのと同時に、「もしかすると将来、少しは大物になるかも?」と期待してしまいました。親バカです(笑)。
無事にアメリカの入国審査を終え、空港へ迎えに来たくれた私の弟と合流しました。弟宅までの車内からは日本では味わえないような広大な景色を楽しみ、弟宅では家の敷地の広さや建物の造りなど、何もかもが日本とは違う様子に息子はキョロキョロし続けていました。そして、そんな息子を見ながら私は「日本にはないものをここで体験して様々なことを感じ取って欲しい」とひとりごちました。
次回は初めて訪れたアメリカで息子が出会ったことなどをお話しします。お楽しみに。
