第3話 新潟粟島の島弁

故郷のことを知りたい一心で

 「粟島(あわしま)」って、ご存知だろうか? 香川の粟島ではなく、沼津の淡島でもない。佐渡島の隣の小さな島、粟島。

 私は18歳まで新潟市で育った。子どもの頃に住んでいたマンションは坂の途中に建つ6階建てで、窓からは遠く粟島が見えた。私の勉強机は窓際にあったので、机に向かうとついつい海を眺めてしまう。新潟市から見える佐渡島は大きくて、子どもの頃に何回か家族で行ったことがあるけれど、その隣の小さな粟島には行ったことがないまま、私は上京して短大に進んだ。ひょんなことから映像業界に入り、東京の生活の方が長くなってしまった頃、私は急に故郷新潟のことが気になり始めた。

 父は北海道出身、母は宮崎出身で、私は東京で生まれて保育園の頃に新潟市に引っ越してきた。だから新潟には親戚がおらず、18歳までの知識でしか新潟のことを知らない。「そんなんで新潟出身って言っていいのか?」「もっと新潟のことを知らないと恥ずかしいぞ!」「みんなにも新潟の良いところを伝えなきゃ!」という変な使命感が湧いてきて、私はNHKの『さわやか自然百景』という番組にがむしゃらになって新潟の企画を出し続けた。そして「粟島」の提案が通り、私は春と夏の2回、その島へ行くことになったのだ。

新潟の粟島の写真
新潟の粟島。佐渡島の隣にある小さな島

粟島フェリーのほろ苦い思い出

 粟島へ向かうフェリーの上で、初めてイルカを見た。新潟の海にもイルカって来るんだと妙に嬉しかったのを憶えている。粟島は渡り鳥の中継地点で、春には珍しい鳥を見ることができる。普段は山にいる青く美しいオオルリも、浜辺でちょんちょんと歩いていたりする。島の人は親切だし、食事も美味しくて、いっぺんに大好きな島になった。

 と、ここまで書いて、「ちょっと待て、本当に粟島の思い出はそれだけか?」という声がどこからか聞こえてきた(笑)。そうだった、今思い出しても冷汗が出るような忘れられない思い出があった。

 それは、すべての撮影が順調に終わって東京に戻る日。民宿のおばちゃんたちに別れを告げたあと、フェリーの出航までには時間があったので、町の温泉施設で過ごすことにした。東京に帰ったら連日の編集が待っている。あぁ、束の間の幸せな時間。これが地方ロケの醍醐味だよなぁ~なんて心地よい疲れを癒して、さぁ、帰るぞ!と気合いを入れて港に向かった時、私たちが目にしたのは、岸壁をゆっくり離れていく船……。

 まさかフェリーの時間を間違えたか!? 船はまだすぐそこに見えている。パニックになりながらも、お願いしたら戻ってくれるかも知れないと「おーい!おーい!」と一生懸命アピールしてみたけれど、無駄だった。そりゃ、そうだ(苦笑)。プライベートの旅行だったら笑い話で済ますところだが、スケジュールが決まっている仕事の出張なので、シャレにはならない。大目玉を覚悟して各所に平謝りし、別れを告げた民宿に戻って、また泊めて貰うという大失態をやらかした。今思い出しても恥ずかしいほろ苦い思い出だ。

駅で見かけた「あわしまの島弁」

 あれから十数年。ある日、新潟駅の売店で「あわしまの島弁」を見かけ、即買いした。これは新潟でしか売られていない駅弁なのかも知れない。ネーミングは駅弁ならぬ、島弁だ。パッケージも良い意味で垢抜けない感じがいい。こういうローカルで気取らない駅弁は、なんだか懐かしさを感じられてすごく好きだ。フタの裏にはお品書き。なかでも粟島産のじゃがいもを使ったコロッケが特に美味しかった。また行きたいな、粟島へ。

あわしまの島弁の写真
あわしまの島弁の中身 写真
あわしまの島弁。お品書きもいい味を出している

今月の駅弁紹介:新潟の駅弁「えび千両ちらし」

 駅弁特集の番組などでもよく紹介されている、新潟・新発田三新軒の「えび千両ちらし」。駅弁の人気ランキングでは常に上位にいる駅弁だ。味もさることながら、この駅弁が人気なのはフタを開けた時、敷きつめられた玉子焼きが目に飛び込んで来るところ。この玉子焼きの下には何かが隠れているのかなと思いながらそっとめくると、海老やイカ、コハダに鰻とお宝がザクザク詰まっている。まさに千両箱! 米どころの駅弁は間違いない。

えび千両ちらし 駅弁
新発田三新軒「えび千両ちらし」。駅弁人気ランキングの常連

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