
<やまなし介護劇場>
「母、危篤」の連絡を受け、東京から故郷山梨へ飛んで帰って早13年。50代独身の著者が愛する母を介護しながら生活する日々を明るくリアルに綴ります。
目からウロコのダイエット法
ネット社会は多様な常識が溢れていて情報の取捨選択が悩ましい時代です。もはや情報は容量・用法を守るべきルールがありません。食事や健康も同じく、何が自分にフィットするかはやってみないと分からないし、人それぞれの方法を見つけていくしかないようにも思いますね。
介護でも、要介護人の母と介護する側の家族は、同居はしているものの生活リズムや体調が同じわけではありません。ついつい「良かれ」と思ってやったことが逆効果をもたらすこともありがちです。
二年前、母は左肩を骨折し、整形外科に通院することになりました。左半身麻痺のため、長年動かない左肩が亜脱臼気味で骨密度が低くなっている上に無理な生活動作をしてしまったのが原因でした。その時、医師は介護する側(家族)に注意を促すと同時に、母にも「痩せなきゃダメだよ。介護する側も大変だからね」と、一喝入れてくださいました(笑)。母も素直に「はい!」と返事をしていましたが、その時の母の体重は70kg超え(身長は約160cm)。確かに介護する側には重く、ぎっくり腰も経験したことがあります。
とはいえ、母は要介護。体が不自由では運動するにも限界もあるし、そんな母が体重を減らすにはどうしたらいいかを医師に訊ねると、目からウロコのアドバイスをくださったのです。
「食べたくない時は、食べなくてもいいんだよ」
常識外れが正解の時もある
健康な私にとっては1日三食が常ですが、母はほとんどの時間ベットに寝ているか座っているかで、散歩も車イス。健常者に比べると、1日の活動量はきわめて少ないわけです。それでも「家族が食べるのだから」と、母に毎食の食事をさせるのが常態化していました。たまに母が「食べたくない」と訴えても食べさせていたのは、「食事を摂らないと健康を害するのではないか?」という一般常識に囚われていたから……でもあります。
医師はこう続けました。「食べたい時だけ食べれば十分。夕食を食べたくないなら、夕食抜きでもいいんです。体は睡眠中に食べ物の消化活動をしなくていいから、細胞の修復に労力をかけられる。お母さんはエネルギー量が少ないんだから、お腹が減ったときだけ食べるのでもいい。臨機応変でいいんですよ」。
これはまさに「目からウロコ」でした。摂取カロリーと消費カロリーのバランスを考えれば当たり前なのですが、母の食事管理を「健常者のリズムに合わせなくていい」と気づいたのです。私だって体調を崩せば、何も食べたくない時もあります。とにかく「無理に食べさせなくていい」と知って、とても気が楽になりました。主に母の食事管理をしている妹にとっては、「自分達だけ食べて、母に食事を与えないのは罪深い感じがする」という呪縛から解き放たれた瞬間だったそうです。
結果、二年前には70kg以上あった母の体重は57kgになりました。「食べたくない時は無理に食べない」ことにして、なんと10kg以上のダイエットに成功したのです。急激なダイエットではなく少しずつ減ったおかげで、母の肌ツヤも顔色も良く、お陰様で介護も少し楽になりました(笑)。
要介護の「不穏行動」が適度な運動に?
この連載でも何度か書きましたが、母は何かのスイッチが入ると寝起きを繰り返し、「寝ました! 起きました!」と宣言しながら自分の体を起こしたり、寝かしたりする不穏行動をします。
それに毎回付き合っていたときは大変でしたが、ある時から「寝たきりでいるよりも、いい運動をしていると考えよう」と思い、ある程度やり過ごすコツ(根気強くテキトーに返事をする)を掴んでからは介護する側(私)はだいぶ楽になりました。
ある時、母のお腹の脂肪が減っていることに気づきました。なんと、一連の不穏行動で腹筋と背筋が鍛えられているようで、母の体が引き締まってきたのです。以降、我が家ではこれを「母の不穏エクササイズ」と呼ぶことにしました(笑)。
これは介護歴13年目の奇跡のひとつですが、人体は本当に不思議です。たかだか56年しか生きていない未熟者として、介護生活から都度、学んでいこうと思います。「災い転じて福となす」と信じて。
【介護人の悩み 教えて!ChatGPT】
Q:介護の中でも母の不穏行動には苦労させられっぱなし。でも、それによって母の腹筋・背筋が鍛えられて体が引き締まった。また、母が食べたくない時は無理に食べさせないことにしたら、2年で10kg以上の減量に成功。この結果は目からウロコ。母の良好な結果と自分の精神の折り合いはどうつければいいでしょうね?
<ChatGPTの回答>※AIのChatGPTに聞いてみました(提供:OpenAI)
(原文ママ)
なんとも人間くさい“ねじれの奇跡”ですね。
苦労の結果が「母の体幹アップ&ダイエット成功」だなんて、神様のユーモアが過ぎます。
ただ、ここで大切なのは「それもあなたのケアの一部」という視点です。
不穏行動が筋トレになったのも、食事量を尊重したからこその体重調整も、
どちらもあなたが「過干渉せず、見守れた」から起きたこと。
つまり、あなたの忍耐と観察が母の身体に「自己調整の余地」を与えたのです。
人は、頑張って「何かをやる」ことで達成感を得ようとします。
でも介護では、「何もしない」ことが一番むずかしく、そしてその「引く勇気」が結果を良くすることもある。
あなたはその難易度マックスのケアを自然にやってのけたわけです。
折り合いをつけるなら——
「母の成果は、私の静かな努力の証」
「無理させなかったことが、最高の支援だった」
と、心の中でつぶやいてください。
母は体で「感謝の形」を見せてくれたのかもしれませんね。
そして、あなた自身も見えないところで、
確実に「介護筋」が鍛えられています。
<一服のコメント>
「介護筋」とは、面白い表現!! 確かに、理不尽を受け入れる(受け流す?)図太さは肥大し、少々忍耐強くなったかもしれません。そのうえで一連の結果は「気長に行こうぜ!」という気づきを与えてくれました。「母は“老化筋トレ”の先輩。私はまだ弟子」と、母の結果に嫉妬しながらも、今後も背中を追いかけていきたいと思います(なんか悔しい!笑)。

