ひとり駅弁部 第30話『それでも世界は笑っている』

年を重ねるごとに1年が早くなる?!

 「♪毎日難儀なことばかり 泣きつかれ眠るだけ」
 「日に日に世界が悪くなる 気のせいかそうじゃない」

 毎朝8時に流れてくるNHK朝ドラ『ばけばけ』の音楽。朝から暗い歌詞だよなぁと最初は思ったけれど、いつの間にか「♪ホントにねー イヤになるわー」と勝手に節をつけて相槌を打っているワタシがいる。

 新年を迎えると、「今年はどんな年になるかなぁ」と期待に胸をふくらませてきたけれど、年齢を重ねるにつれ、「♪日に日に1年早くなる 気のせいか そうじゃない」って感じになってくるのは否めない(苦笑)。

仕事でお世話になった大切な先輩が急逝して

 昨年末、仕事で長年大変お世話になったカメラマンの白岩さんが亡くなった。AD時代から駆け出しのディレクター時代を並走していただいた大先輩だった。

 ディレクターデビューをするときは、大抵ベテランのカメラマンにフォローしてもらう場合が多い。最初は自信がないからベテランの圧に負けてなかなか自分の意見を言い出せずにためらってしまう新人もいるが、ベテランの白岩さんには最初からそんな雰囲気は微塵も感じられなかった。

 撮影での思い出はたくさんある。福島の只見町では偶然にもイヌワシを撮影して大騒ぎし、西表島ではイリオモテヤマネコの撮影に成功して喜び、エジプトではルクソール神殿のテロから危機一髪逃れて安堵し……と、苦楽を共にしてきた。話しやすくて、キツイ撮影現場でも白岩さんとならいつも楽しく仕事ができた。

 最近は環境も変わり、一緒に仕事をすることもなくなっていたが、SNSの投稿でお互いの状況は把握していた。亡くなる前日も何気ない日常の投稿に“いいね”を押したばかりだった。白岩さんの突然の訃報を受けて、旅先で一緒に写っている写真を引っ張り出して眺めていたら、自分でも受け止めきれない感情がブワッとあふれてきた。こんなにダメージを食らうものなのか……。もう、あの時代を共有して話す相手がいないんだと思うと自分の一部を失ったように感じて、白岩さんともっと会って話せたらよかったという後悔が押し寄せてきた。

老いをどう生きるべきか?

 白岩さんが亡くなる1年前、「カメラマンを引退する」というメールを貰った。そのメールを受け取って寂しかったが、自分にもいつかそういう日がやって来るんだろうなぁと想像した。

 脚本家の山田太一さんが生前、「老いをどう生きるか」というテーマをテレビ番組で語っていた。あれほど活躍された方なのに「テレビは忘れられるメディア。自分の過去が砂時計のようになくなっていく」「自分は捨てられた人間」などと語っていてショックを受けた。

 けれど、老いるのは悪いことばかりではないとも言っていた。「老いの良さは“弱者の眼差し”を持てること」だと。私もその境地は理解できる。だんだんと体力にも自信がなくなってきて、「年を重ねた母はあの時、こんな感じだったのか……」というように身に染みてわかるようになった。それと並行して、自分中心に生きてきた若い頃のギラギラした感じは過ぎ去り、現役世代の若者の行動が可愛く思えて、以前よりも寛容に受け入れられるようになった。昭和のドラマで「若い者にはまだ負けられん」という元気な高齢者のセリフをよく耳にしたけれど、そんな気持ちを持ち続けられるのはすごいことだよなぁとしみじみ思う(苦笑)。

 悲喜こもごもいろいろあった年末、テレビで「M-1」を観ていたら自然と笑っている自分がいた。辛いことがあっても人って笑えるんだなぁ。白岩さん、なんかごめん。笑えるワタシは、きっとまだ大丈夫。忘れたわけじゃないけれど、前に進まなければならないから許してほしい。

 「M-1」を観て、なぜだか「頑張ろう」というチカラが湧いてきた。オールド・メディアと言われているテレビだけれど、お笑い番組で元気がもらえて、新しいスターが一夜で誕生するテレビのチカラは捨てたもんじゃないと思う。まだまだ若者には負けていられませんなぁ。

今月の駅弁: 石川県加賀市 高野商店「輪島朝市弁当」

 元旦は清々しく希望にあふれた日と思って過ごしてきたが、2024年元旦におこった能登半島地震以来、今も仮設住宅で過ごしている方たちがたくさんいることを思うと素直にお祝いできない忘れられない日になってしまった。

 昨年、東京駅で出会った「輪島朝市弁当」。1200年も続いた輪島朝市は地震で焼失してしまったが、今は「出張輪島朝市」として出店しているらしい。この駅弁は輪島朝市組合公認で、輪島の朝市をイメージして作られている。牡蠣飯、カキやサザエのいしる煮、ゴリの佃煮、いかの酢の物、中島菜入り堅豆腐など、能登の郷土料理がたくさん詰まっている。

石川県加賀市 高野商店「輪島朝市弁当」

 応援するつもりで買ったのだが、これが思った以上に美味しかった! 昨年の私の駅弁ナンバー1に選んでいてもいいくらい。幕の内弁当みたいに整然と並んだおかずではなく、牡蠣飯の上に無造作に郷土料理が置かれている。とても温かみのある駅弁で、誰かに教えたくなった。

 輪島の朝市は行ったことがなかったけれど、市場の朝の活気が目に浮かんでくるような物語が駅弁の中にある。美味しいものを食べれば、自然と笑みがこぼれてくるよね。「元気を出して」と語りかけてくるような駅弁だった。

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