
九州出身で英国在住歴23年、42歳で二児の母、金髪80キロという規格外の日本人マルチメディアアーティスト大渕園子が、どうすれば自分らしい40代を生きられるかを探してもがく痛快コラム。40代はあと8年。果たしてそれは見つかるのか?!
旅慣れていると思っていたけれど
私は18歳からイギリスに暮らし、これまで20年余りの間、ヨーロッパ各地をひとりで旅してきた。格安航空会社を使って気軽に国境を越え、2025年だけでも9カ国を巡った。こう書くと、私はかなり旅慣れた人間だと思う。けれど日本ではひとり旅をしたことがこれまで一度もなかった。
そこで先日、日本に里帰りした際、思い立ってひとりで旅に出ることにした。行き先に選んだのは出雲。以前、私が子どもを連れて帰国した際、両親と一緒にバスツアーで訪れたことがある。わずか二時間ほど滞在しただけだったが、不思議と強く印象に残った。帰国中とある人生の節目で心が疲弊していた私は、自分の気持ちを整えたいと思って、その神聖さを感じた出雲を思い出した。改めて調べてみると、地元・福岡から深夜バスで9時間だとわかり、迷わず予約した。
出雲へのひとり旅
日本でのひとり旅が初めてだったからか、旅には慣れているのに出発前から妙にドキドキしていた。今回の目的は出雲大社への参拝。YouTubeを観て参拝の作法を確認し、観光情報を調べてガイドブックまで買ってしまった。せっかく出雲大社に行くのだから着物を着てお参りしたいと思い、レンタルの着物も予約して、深夜バスに揺られながら出雲へ向かった。
出雲大社の近くに到着後、すぐに着物に着替えた。二礼四拍手二礼という特別なしきたりを持つ出雲大社は、空気そのものが違っていた。着物を着ていたこともあって自然と背筋が伸び、心が整っていく。手を打つたび、祈るたびに、自分の中の余分なものが祓われて、何かに守られるような感覚があった。それまでも神社への参拝はわりと身近なものだったが、今回は「参拝そのもの」を目的にその土地を訪れ、着物をまとい、静かに全身で向き合ったので、これまでとはまったく違った。心と身体がすっと整っていくのを感じることができた。
その日の宿は、ホテル検索サイトで出雲大社周辺の一番お手頃な宿を予約していた。到着してびっくり。昔は旅館だったであろう、大きな日本家屋。無人でチェックイン、私ひとりで使った。畳の部屋がいくつもあり、障子や欄間、日本庭園に目を奪われた。大きくて深いお風呂に入り、布団を敷いて眠る。目に入るすべてのものが美しく、何十年も丁寧に使われてきた人の心が、静寂の中から伝わってきた。和風建築の家で過ごす時間そのものが、深い豊かさだった。
ひとり旅をする、ということ
翌日は路線バスで日御碕神社へ向かった。道中、どうしても立ち寄りたかった「花房」という店で食べた海鮮丼「古事記丼」は、私の人生一豪華だった。ウニ、いくら、サザエ、新鮮な刺身がぎっしりと並び、ひと口ごとに思わず笑みがこぼれた。その後、清々しい気持ちで日御碕神社で手を合わせた。そして出雲市内からまた深夜バスに乗り、福岡へ戻った。

ヨーロッパをたくさん旅してきた私だが、日本では里帰りのために時間を遣うので、ほとんど旅はしてこなかった。出雲には自然の豊かさ、静かさはもちろん、自分の歳分の知らなかった「日本」があった。知らない場所とはいえ日本語が通じる環境の中で、ひとりできちんと自分自身と向き合う時間を持つ。出雲への一人旅は、愛する人に想いを馳せ、祈り、これからの人生を考えることができた。日本を知る旅でもあり、私が私に戻るための旅でもあったと思う。
人生の節目にひとり旅をすることは、次の章へ進む前に、いったん自分の原点に立ち戻るための行為だと思う。








