
冷たくても美味しい駅弁
行楽シーズンでごった返す東京駅の「駅弁屋祭」では、恒例の『駅弁味の陣』が開催されていた。東日本を中心に各地の自慢の駅弁が集まり、その中から押し弁を選んで投票し、「駅弁大将軍」など各賞が決まる。
今年は駅弁誕生140周年ということもあって、2025年に販売を開始した新作の駅弁だけでなく、かつて販売されていた「復刻版」の駅弁も多数エントリーしているので、珍しい駅弁に出会う絶好のチャンスだ。

駅弁を選ぶ日本人に交じって外国人家族の姿をよく見かける。今や「BENTO」「EKIBEN」は世界共通語で、日本が誇る文化なのだ。
以前、日本で暮らす外国人から、来日した外国人ママたちが困っているのは、学校に持っていく「お弁当」だと聞いたことがある。「日本人のお母さんたちが作るお弁当があまりにも凄いので……」とお弁当づくりにプレッシャーを感じているそうだ。
確かに、SNSにはキャラ弁やらカラフルで美しいお弁当の写真があふれている。「手の込んだお弁当を毎日よく作れるなぁ」と私も感心して見ているが、世界中を探しても、栄養バランスや見た目の彩りを考え、様々な料理を綺麗に箱に詰める文化はほかにないと思う。
日本のお弁当はおにぎり然り、基本は冷めているのが定番だ。「冷たい駅弁より、温かい料理を食べたい」と言う人もいるけれど、駅弁は冷たくても美味しく食べられるように考えられているし、腐らないようなおかずの工夫もされている。もちろん温めて美味しく食べる駅弁もあるけれど、私はわりと冷たい駅弁が好きだ。それはたぶん、学生時代に毎日食べていた母が作るお弁当の懐かしい記憶と重なるからかも知れない。
食べ慣れた米の味
そんなことを考えていたら、ふと思い出したことがある。何十年も前の話なので大目に見てほしい。私が中学生だった頃、新潟市から向かう修学旅行の地は東京だった。みんなで夕食を食べはじめた時、同級生たちが口々に「東京のごはんが美味しくない」と騒ぎ出した。食べ慣れていないお米のせいなのか、一斉にみんなが話題にしたのを憶えている。今思うと「お米の味にうるさい中学生ってどうなのよ?」って思うけれど、これは米どころの新潟ではよく聞いた話(苦笑)。
でも、大人になってある同級生と再会した時、修学旅行の話になって、あの時みんなが言う米の違いがまったくわからなかったと打ち明けられた。その彼は修学旅行から自宅に戻り、親にそのことを伝えると、「うちのお米は去年の古米だからね」と言われてショックを受けたそうだ。「家のお米を美味しいと信じて食べていたのに」と……。
上越市の市長が他県の米をまずいと言って謝罪騒動になったことがあったが、今は全国に美味しいお米のブランドがたくさんあって、駅弁でもご当地のお米を楽しむことができる。ごはんが美味しければ、駅弁は冷めていても美味しく食べられると私は思う。
駅弁を食べるタイミング「駅弁時間」
夜8時頃だったろうか、ゆっくり駅弁を買う時間がなくて、間に合えば新幹線のホームで買おうと思っていたら、数種類の駅弁しか残っていなかった。食べたい駅弁が見つからなかったがお腹が空いていたので、とりあえず海鮮の駅弁を買った。よく見かける駅弁だけれど、食べたことはなかった。
時間が遅かったからだろうか、色味が少しくすんだ感じがして、いまいち美味しくなくて初めて駅弁を残してしまった。時間が経って味が変わってしまったのか、私の体調に合わなかったのか、やはり美味しく食べる「駅弁時間」ってあるんだなぁと、ちょっと悲しくなった。
なかには「賞味期限ギリギリに食べる押し寿司が好き」という友人もいるから、駅弁時間は人それぞれなのかも知れないが、私は食べたい駅弁をじっくり選んで、旅に向かうテンションのまま、列車の中で食べるのが一番美味しい駅弁時間だと思っている。
今月の駅弁:福島・福豆屋「磐梯山べんとう」

子どもの頃、日曜になると車で家族と遠出するのが楽しみだった。行き先のひとつだったのが、福島の会津。車窓から磐梯山(ばんだいさん)が見えてくると、「♪小原庄助さん、なんで身上潰した。朝寝、朝酒、朝湯が大好きで、それで身上潰した。ハァモットモダ モットモダ」と、小原庄助が誰かも知らずに、父から教わった子どもらしからぬ民謡を大声で歌っていたのを憶えている(笑)。
そんな思い出が詰まった駅弁に出会ったのも東京駅の『駅弁味の陣』。会津の食材などを使用した「あいづの風を感じる~磐梯山べんとう」。今年の初夏に期間限定で販売された駅弁だが、掛け紙が夏から秋のもみじに変わっていた。フタを開けると緑色の仕切りが磐梯山を模している。メインは私が大好きな会津のソースカツに、牛肉煮。その上には会津特産のアスパラ焼きがのっている。玉子焼きは控えめな甘さの懐かしい味。お米は会津産コシヒカリで美味。味も大満足の駅弁だった。
思いがけずに出会った駅弁から、懐かしい思い出がよみがえってきた。








