
九州出身で英国在住歴23年、42歳で二児の母、金髪80キロという規格外の日本人マルチメディアアーティスト大渕園子が、どうすれば自分らしい40代を生きられるかを探してもがく痛快コラム。40代はあと8年。果たしてそれは見つかるのか?!
私にとっての「おふくろの味」といえば
私にとっての「おふくろの味」は、母が作ってくれたそうめん入りの味噌汁である。そうめんの他に油揚げと薄くスライスした玉ねぎも入っている。小さい頃からずっと食べてきたので、それが味噌汁の定番だと思っていたが、近年になって複数の友人に話したら「えっ? そうめん入れるの?」と驚かれ、それが我が家特有のものだと気づいた。だが、私はこの味噌汁が好きだし、誰が何と言おうとこれが「母の味」であり、我が家だけの伝統料理なのだ。
一方、母となった私が子どもたちに作り続けているのは日本の味噌汁でなく、ポーランドのトマトスープである。これはZupa pomidorowa(ズパ・ポミドロヴァ)というポーランドの伝統料理で、今から十数年前にポーランド人の友人宅でごちそうになったのがきっかけだった。
そのシンプルで深みのある、心がほっとする味に感動してレシピを教えてもらい、最初はポーランド食材店へ行って材料を揃え、習ったレシピ通りに作っていた。そのうち、だんだんと近所のスーパーで手に入る材料で代用するようになり、自分なりのアレンジを加え始めた。レシピには書かれていなかった赤ピーマンなども加えているうちに、気づいた頃には「私の味」になっていた。今では出張から戻ると子どもたちが「お母さんのトマトスープが食べたい」と言ってくる。きっと私が母の味噌汁に感じていた安心感や優しさに包まれる感じを、子どもたちもこのスープに感じているのだろう。
うちの子どもたちにとっての「おふくろの味」
実際のところ、このトマトスープは材料を煮込んでトロトロになった野菜をミキサーでなめらかにし鍋に戻すだけの、手間がかからないシンプルな料理だ。
でも、鍋の前で野菜がコトコト煮えていく音を聞きながら、私はよく子どもたちとの日々の何気ない出来事や、家族の会話を思い出したりしている。そうやって気持ちを込めながら作ったスープは、味だけでなく、私の記憶や愛情ごと家族に伝わっているのだと思う。
私にとって母のそうめん味噌汁は「最後の晩餐」に選びたい一品だ。母の味噌汁には、それほどの思い出と愛が詰まっている。私の子どもたちも成長して親の元を巣立ったら、ふと私のトマトスープを思い出すのかもしれない。「あのスープをもう一度食べたい」というより、あの味の中に感じた母親の愛にもう一度包まれたい……そんなふうに。
「おふくろの味」とは、味以上に、誰かと過ごした日々の記憶と、確かにそこにあった愛のことなのかもしれない。
我が家のトマトスープの作り方
ポーランドの友人直伝のスープ「ズパ・ポミドロヴァ」をアレンジ した我が家のトマトスープ・レシピ
【材料】(4人分)
- 鶏肉(骨付きもも肉)約500g(または骨付きモモ肉4本)
- 水 2~3リットル
- 塩 適量
- にんじん 2本(皮ごと)
- セロリ 2本(葉は除き、半分に切る)
- 玉ねぎ 1個(皮をむいて丸ごと、または半分に切る)
- 赤ピーマン 1個(半分に切って種を取る)
- パセリの根元から葉まで 数本(あれば)
- 西洋ネギ(リーキ)2本(半分に切る)
- ローリエ 2枚
- トマトピューレまたはペースト 大さじ2〜3(酸味はお好みで)
- パッサータ(裏ごしトマト) 500g
- 野菜のブイヨンキューブ 1~2個(1個で足りなかったら足していく)
- 鶏のブイヨンキューブ 1~2個(1個で足りなかったら足していく)
- 無糖ギリシャヨーグルトまたはサワークリーム 100ml
- 黒こしょう 適量
- ショートパスタ(マカロニなど)適量(ポーランドのCzaniecki Gwiazdkaという卵パスタが最適)
- 刻んだパセリ 適量(仕上げ用)
【作り方】
- 鶏の下ごしらえ
鶏肉を流水で洗い、水を張った鍋に入れる。 - 鶏肉を煮る
沸騰したらアクを取り除き、弱火にして20分ほど静かに煮込む。 - 野菜を加える
にんじん、セロリ、玉ねぎ、赤ピーマン、西洋ネギ、パセリ、ローリエを加えてさらに30分ほど煮込む。 - 野菜をミキサーにかける
鶏肉とローリエを鍋に残し、野菜だけを取り出してミキサーにかける。なめらかになったらスープ鍋に戻す。 - トマトを加える
トマトピューレとパッサータを加え、味を見ながら中火で温める。 - 味を調える
ブイヨン(野菜・鶏)を加え、塩と黒こしょうで調味する。 - 仕上げ
沸騰させずにやさしく温め、火を止める。 - 盛り付け
器に茹でたパスタとお好みで鶏肉を盛りつけ、上からスープを注ぐ。
ヨーグルトまたはサワークリームをそっと添え、刻んだパセリをふって完成。

