
人生初の推し活、しかも遠征
旅の目的はいろいろあるけれど、今までの人生でやったことのなかったのが「推し活旅」。いわゆる好きな「推し」に会うために出掛ける旅だ。若かりし頃、バンドの全国ツアーに付いて回っていた友人がいたが、なんでそこまで夢中になれるのか理解できず、私にとっては未知の領域だった。そんな私が昨年、東京から愛知まで推しのライブの遠征に出かけることになった。
推しはNumber_i。彼らの音楽性はもちろん好きなのだが、大人気のアイドルが大きな事務所を辞めると知ってから、その行く末が気になって過去にさかのぼって調べていたらまんまとハマってしまった。ライブが観たくて、人生初のファンクラブにも入った。そんな私の話を聞いた友人たちは、「あなたがハマるなんてびっくり!」「アイドルでしょ?」と一様に驚いていた。「こちらの世界へようこそ」と出迎えてくれる友人もいたけれど(苦笑)。今まではバンド系のライブにしか行ったことがなく、アイドルに興味がなかった私なのに、まさか人生の折り返し地点を過ぎてから「推し」ができるなんて、自分が一番驚いている。
1人でライブに行く勇気がないから、友人と2人分のチケットを申し込んでみたけれど、予想通り全滅。試しに自分1人だけで申し込んでみたら、それが思いがけず当たってしまった。その時の私は「やったー!」というよりも、「どうしよう……」という気持ちが強かった。学生だったらまだしも、この歳になって「ペンライトは買わなきゃいけないの?!」「うちわを持つなんて絶対ムリ!」などとジタバタした。しかも、人生初の遠征だ。
推しがいると人生にハリが!
一緒に仕事をしていた後輩に「実は今、Number_i にハマっていて……」と打ち明けたら、「私も推しているグループがいます!“推し”がいると人生にハリが出ていいですよ」と言われて、なんだか仲間ができたようで嬉しかった。ずっと仕事ばっかりしてきた私たちに「推し」ができるなんてね。これからの人生は長いから、楽しみを見つけることも必要よねぇ。なんて納得したりして。
テレビ番組を作る仕事をしているから、テレビ局で芸能人とすれ違ったりするが、その芸能人に近寄っていく人はいない。それが暗黙のルールだからだ。以前NHKの食堂で、大河ドラマに出演中の大人気の俳優2人が、私とAD男子が食べていた同じテーブルに侍姿で相席したことがあった。少し緊張しながら食べ終わったあと、AD男子がポツリと「同じ男でいるのが嫌になる……」と、つぶやいた。私は笑うしかなかったが、スターを目の当たりにすると一般人との違いに何かしら気づかされるものだ。
ディレクターという仕事柄、いろんな著名人と仕事をする機会はあるけれど、私は「自分の推しと仕事をしてはいけない」と思っている。やはり仕事は仕事のスタンスになるので、いくら好きでも仕事をするとファンとしての熱が一気に冷めてしまうのだ(正気に戻るだけなのかも知れない)。それって、ちょっと悲しいことだと思う。だから「素晴らしい人物だから取材をしてもっと知りたい」ということと、「推しに会ってみたい」ということは、私の中ではわりと線引きができている。
推しとのちょうどいい距離感
話はNumber_i の愛知遠征ライブに戻るが、仕事でギリギリに着いて席を探したら、なんとセンターステージの最前列! 運がいいのか悪いのか、この界隈のルールもわからなかったが、隣の大人女子も1人で参加していたので、初めて会った人だけれど妙な連帯感がわいてきて心強かった。
私がそれまでに行っていたライブは、座席があってもほとんど立ちっぱなしだったので、アイドル系のライブはもっと大騒ぎしてすごいんだろうなぁと想像していた。大人女子と一緒にずっと立って見ていて、ふと後ろを振り返ったら、私たち以外はみんな座っていた。「推しが遠くにいる時は座るのが普通なのかしら?」と思って慌てて着席したが、何が正解なのかよくわからなかった(苦笑)。でも、周りの人たちはみんな優しくて、最後は私にも銀テープを分けてくれた。

今思い返すと、推しが目の前に来ても理性が働いてしまって感情をぶつけることができず、私はただひたすらペンライトを振っていた。これが学生時代だったら、もっと純粋に楽しんで違う反応をしていただろう。アンコールだけはカメラで撮影をしてもいいということだったので、私はまるで仕事のときのように黙々と撮影した。隣の大人女子は興奮して上手く撮れなかったらしく、映像を送ってほしいと頼まれたので、私は喜んで差し上げた。同志と喜びを分かち合うのも楽しい。いろいろ戸惑いながらも、こうして私の推し活デビュー遠征は終わった。
果たして「推し活」といえるのかわからないけれど、今は推しの出演情報は逃さずチェックし、SNSで同志たちの投稿を見て「いいね」を押しまくっている。一応、分別のついた大人になってしまったので、遠くから眺めているくらいがちょうどいい。
そして、推し活旅は続き、つい先日、Number_i の新潟公演に行って来た。前回の反省を踏まえ、自分を解放して楽しもうと、事前にLIVEビデオを見て気分を盛り上げていたのだが、今回の席はアリーナ後方で、彼らは豆粒でちっとも見えなかった。前回は神様がくれたビギナーズラックだったんだなぁ。いやいや、チケットが当たっただけでも幸運じゃないか! もうこれは音楽に身を任せて踊るしかなかった(苦笑)。そして、ひとつわかったことがある。推しは推せるうちに推せ! 元気なうちに楽しんだもの勝ちだ。

今月の駅弁:名古屋 松浦商店「幕の内 なごや」

せっかく名古屋に来たのだから、「名古屋らしい駅弁が食べたい!」とネットを探っていたら、そのまんまの「なごや」という幕の内弁当を見つけた。名古屋の駅弁といえば、「名古屋めし」といわれる「味噌カツ」や「ひつまぶし」などが多い気がするが、松浦商店「幕の内 なごや」は1964年に東海道新幹線が開通した当時からある駅弁だった。
駅弁の三種の神器は「玉子焼き、カマボコ、焼き魚」だそうだが、「幕の内なごや」はそのすべてが入った王道の駅弁。特に玉子焼きは「玉子巻き」と呼ばれ、職人が手づくりにこだわって、薄焼き玉子を幾重にもまるめてひとつひとつ丁寧にふっくらと焼き上げているらしい。
私が嬉しかったのは、ゴボウが巻かれた「チキンロール」の照り焼き。昔、母もお弁当に入れてくれていたのを思い出した。私は幕の内弁当が好きなので、こういう駅弁に出会うと嬉しくなる。これからもこの駅弁を見ればきっと、初めての「推し活旅」の思い出がよみがえってくるんだろうなぁ。







