住民票の「続柄」に書かれた文字

まずは太郎くんの住民票の変更から

 太郎くんがとうとう我が家に引っ越してきたので、太郎くんの住所も変わります。

 児童養護施設からの引越しの際、重要書類のひとつとして受け取った太郎くんの住民票。これを我が家に変更するには、私と夫が太郎くんの里親であることを証明しなければなりません。そのためには児童相談所から受け取った2つの書類(第17話参照)が必要になります。そして、私の身分を証明するために運転免許証、パスポート、健康保険証を用意して、役所へ行く準備は完了です。

慣らし保育と試しの行動

 太郎くんの保育園は、まずは「慣らし保育」ということで、1週目だけは月・火曜日は午前中のみ、水・木曜日は午後3時まで、金曜日は午後5時までというスケジュールで始まりました。我が家は共働きなので、夫婦のどちらかが仕事を早退しないと太郎くんをお迎えにいけないため、私が時間休をとりました。時間休を取った際に太郎くんの住民票の手続きもやろうと考えていました。

 さっそく月曜日がやってきました。午前中で仕事を早退して保育園にお迎えに行った後、帰宅して役所に行こうとすると、太郎くんが公園に行きたいと言い出したのです。私は、住民票の手続きは早めに済ませたかったので、太郎くんの説得を試みましたが……。

太郎「ぼく公園で遊びたい。ブランコに乗りたい!」
私 「太郎くん、私、役所というところに行って、大事な手続きをしないといけないの。一緒に行こう。それが終わって、おうちに帰ってきた後でも公園で遊べるよ。」
太郎「ぼくは今から公園で遊びたい! 早く、早く!」
私 「でも大事なことだから、今日やった方がいいと思う。だから今から行こうよ」
太郎「でも、ぼくは公園で遊びたいの。だから、それは明日行こうよ!」
私 「……じゃあ明日、必ず行こうね。」

 保育園のスケジュールに合わせて翌日も勤め先から時間休を取っていたので、その日は役所を諦めて太郎くんと一緒に公園に行きました。ブランコを押しながら、「これって、里親研修で習った『試しの行動』のひとつなのかな?」なんて考えたりもしました。研修は受けたけれども、まだわからないことばかりです。

 結局、この日は自宅に近い公園で夕方まで遊び、そこで同じ集合住宅に住む子どもたちとそのお母さんたちと初めて交流しました。子どもがいなければ、挨拶程度の付き合いしかなかったと思いますが、太郎くんを通してご近所の子どもたちやお母さんたちと知り合える——これまでとは社会の見え方や付き合い方が異なることを実感しました。

役所で手続きをしてみたら

 翌日の保育園のお迎えの後、遊びたがる太郎くんをなだめて、やっと役所へ行くことができました。

 用紙に記入して順番を待っている間、待合室の棚に置かれた様々な冊子やパンフレットが目に入りました。なかには「子育てサポート」という冊子もあったので1枚、いただきました。これは登録した住民の中で、「子育ての手助けをしてほしい方」に「子育てのお手伝いをしたい方」を紹介して、会員同士で一時的に子育ての援助をする事業とのこと。「いつか必要になる時がくるかもしれない」と思いながら、こういうサポートがあることを心強く感じました。役所のホームページや公共の施設に行けば、こういう情報が得られることを知ることができて良かったです。

 まもなく住民票の手続きの順番が呼ばれました。私が用意して持参した書類と用紙を提出すると、担当者は手慣れた様子で作業を始めました。そして、「本日は住民票を発行する必要はございますか?」と聞かれたので、どこかに提出する必要があるかどうかはわからないものの、1部お願いしました。

 提出した書類を手に担当者が何度か離席し、しばらくして戻ってくると「手続きは終了いたしました。住民票の受け取り準備ができましたら、番号でお知らせいたします」と言われたので、安心して待っていると私の番号が呼ばれました。

 そして、受け取った新しい住民票を見てみると、太郎くんの続柄には「同居人」と書かれていました。

 この記載を見て驚いたのはもちろんですが、これまでの人生の中で住民票をこれほどしげしげと見たことはありませんでした。何度か住民票を取り寄せたことはありましたが、住民票に記載された自分の情報は既に知っていることばかりですから、気に留めて読んだことなどなかったのです。住民票に「同居人」という続柄があることも、このときに初めて知りました。

 「同居人か……。私にとって太郎くんは、どう考えても間違いなく“同居人”以上の存在だと思うけどなあ……」。

 なんだか今ひとつ納得いかない気分のまま、この日は役所を後にしました。その後、驚くほど多くの場面で、私と太郎くんの関係を証明するために住民票や措置決定通知書が必要となるとは、この時は知る由もありませんでした。

 次回は、これまでの私の人生において最も影響を与えた書籍を紹介します。お楽しみに!

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