カサンドラたちの夜明け#05

夫を導く船になる!

 夫や同居相手などパートナーとの人間関係において、心穏やかな愛を育むことが出来ず、理不尽や不条理な状況に追い込まれ、社会からも理解してもらえないことに苦しむ「カサンドラ症候群」。この問題にフォーカスをあてたシリーズ『カサンドラたちの夜明け』の第5回目は、共感力のない夫の悪気のなさを理解し、夫の共感力を引き出すために努力することと決心した女性のお話です。自分が得たいものを得るために、自らが夫を導く船になると決めた彼女は、夫との関係にどんな変化を起こしていったのでしょうか。

 カサンドラ症候群の当事者にとって最も辛いことのひとつは「周囲の無理解」です。悩みを友人に伝えても、むしろ夫の味方をされてしまうという辛い状況に追い込まれた妻たち。彼女たちの人生の選択から、皆さんは何を感じますか?

カサンドラ症候群とアスペルガー症候群
カサンドラ症候群は、あらゆる対人関係において起きうるものの、パートナーがアスペルガー症候群である場合に起こることが圧倒的に多いと言われます。カサンドラ症候群とアスペルガーに関する情報は、こちらを参照にしてください。(監修:Dr.ニック、グッドイヤー・ジュンコ)

自分に無関心な夫と、わざと傷つけるような暴言

  • 岡田紀子さん(54歳、仮名)
  • 婚姻期間:30年(同居)
  • 子供の有無:娘1人(結婚して独立)
  • 現在の職業:自営業
  • パートナーの仕事:一部上場企業役員
  • パートナーのアスペルガー症候群検査有無:無

質問:結婚生活30年目。夫との間で問題を感じ始めたのはいつ頃ですか?

 私たちは社内恋愛で結婚し、私は結婚と同時に会社を辞めました。24歳の時です。すぐに妊娠して娘が生まれ、それからはずっと専業主婦をしていました。古い考え方だと言われるかもしれませんが、私は女性は愛する夫を支えて添い遂げるのが役目だと思ってきました。子育てで忙しかったし、自分の人生のことなど考える余裕もなかったので、夫に俺様のような態度を取られていても、特に衝突することはありませんでした。ところが娘が10年前に結婚をして家を出てから状況が変わりました。それまでは気にならなかった彼の言動が、突然気になるようになったんです。

質問:夫のどんな言動が気になり始めたのですか?

 娘がいなくなり、心にぽっかり穴が開いてしまった私は、ちょっと寂しくなったのだと思います。それで、それまでの人生を振り返ってみたのですが、長く結婚しているのに、夫と二人だけで出掛けたことが一度もなかったことに気づいたんです。

 結婚後すぐに妊娠して出産したので仕方ないことだと思います。ですが、これからの残りの人生も長い間一緒に過ごすのですから、夫と二人で旅行や外食にも行きたいと思うようになったんです。ところが、「二人でゆっくり出来る時間を作りましょう」と言ったら、彼は「何を今さら」とまったく相手にしてくれなくて。時間をあけて同じことを言い続けたのですが、いつも拒否。その頃から彼の言動のすべてに私への拒絶を感じるようになって、夫婦仲がどんどん悪くなって行きました。

質問:例えば、他にどんなことが起こりましたか?

 夫はとにかく私に対して無関心です。私の話は聞いてくれないし、取り合ってもくれません。私は40代後半にひどい更年期障害になったのですが、フラフラめまいがしていても、彼は心配もしてくれませんでした。このことが精神的には一番きつかったです。今までは、娘を育てることは私が一身に引き受けてきたという自負があったので、夫も私に敬意を払っていると思っていたのですが、そうではなかったのでは?と思うようになりました。

 たとえば、趣味で続けてきたアクセサリー作りをオンラインで販売したいと言った時も、「主婦しかやってこなかったお前が成功するはずないじゃないか」と言ったり、新調したワンピースを来て友達と出かけようとしたら、「そんなに着飾ったって、オバさんなんだから誰も見ないぞ」と言ったり、夫はわざと私を傷つけるために暴言を吐いているとしか思えなくなりました。

 そのうち夫は私を「娘を育てるための道具」としてだけ私を「使ってきた」にすぎず、そこには尊敬も愛もなかったと思うようになり、数年間、心がボロボロになるまで苦しみました。

思わぬブレイクスルー、それは彼の胸の内を知れたこと

質問:今も夫婦を続けていらっしゃいますが、離婚は考えなかったのですか?

 もちろん考えました。何度、離婚という文字が頭をよぎったことか。夫とは情緒的な心の繋がりを感じることが出来ず、時には自分の存在価値さえ疑うようになりましたが、私は一人で生きていけるだけの収入がないので、ずっと八方塞がり気分でした。

 でも、「これではいけない」と自分を奮い立たせ、思い切って手作りアクセサリーのオンライン販売を始めたら、それがとても好評で、徐々に自信が持てるようになったんです。すると自然と夫の横暴さを無視できるようになって。無視され、愛されてなくても、大好きな仕事に熱中して黙っていれば傷つかずに済む、と思えるようになったんです。境界線のようなものを引いたら、すっかり楽になりました。

質問:紀子さん自身の変化によって、夫にも変化がありましたか?

 残念ながら、表立った変化はまったくなかったです。夫はずっと私を無視し続けました。私を見下すような言動も止まらず、私が病気のときでも看病も心配もしてくれなかったし、誕生日も結婚記念日も毎年蔑ろでした。私には、夫はわざとそういう態度を取っているようにしか思えなかったので傷つくこともありましたが、「私は彼の態度には反応しない」と決めて夫の横暴さを無視し続けました。それが約1年半ほど続きました。

質問:あるとき急に夫が態度を改めたのですか?

 答えはイエスであり、ノーです。私が夫を無視できるようになって1年くらい経った頃、彼は勤めている会社の役員に就任したんです。私は「あなたの努力が実を結んでよかったわね」と言って、ネクタイをプレゼントしました。ちなみに彼はその時も無反応でした。

 ところが、その半年後くらいでしたか、彼がベロベロに酔っぱらって帰宅したんです。普段はお酒は嗜む程度なのに、その日は尋常じゃない酔い方をしていました。玄関で座り込んでしまった夫を寝室に連れていき、ベッドに座らせたらなぜか「紀子、ごめんな。こんな自分勝手な俺に愛想をつかしたよな」と号泣しだしたんです。「一生添い遂げたいと思っているのに、どうやって君と会話していいのか分からない」というようなことを言い続け、さんざん泣いてそのまま寝落ちして。これには拍子抜けしましたね。思わぬ形で彼の胸の内を知ったことが、私の中でのブレークスルーになりました。

夫に明確に意思表示をするようになって変わったこと

質問:夫が酔って思いのうちを語ったことで、夫婦関係はどう変わりましたか?

 翌朝、夫に「あなた、こんなことを言ってたわよ」と伝えてみたのですが、彼は「そんなこと言ってない」の一点張り。でも、ちょっとニヤけながら、バツが悪そうにしていたので、記憶がまったくゼロというわけではないと感じました。

 それからも基本的には彼は何も変わっていません。いまでも無視するし、見下すようなことも言います。でも、私自身は変わりましたよ。それを真に受けて傷つくことしかできない自分から卒業できたと思っています。

質問:どんなふうに傷つく自分から、卒業できたのですか?

 彼が横暴な態度を取ったら、それを冗談ぽく反応出来るようになりました。例えば「お前なんて、どうせダメだ」などと言われた際には、「はいはい、どうせダメですね」という具合に。無視をし続けられたら、「聞こえてますかー!」とおどけてみたり。私がそんな風に対応すると、呆れながらもちょっと反省の色を見せるようにもなりました。でもまあ、それも「そんな意味で言ったんじゃない!」と自分の言動を否定していますが。

 大企業の役員までなった人なので、いつも自分の方が立場が上という意識が抜けないし、プライドも高い。けれど、それも彼の良さで強みなんだと思って。よい意味で彼が変わることは期待していません。私はそれを穏やかに受け止めています。

質問:これからも夫婦を続けていけますか?

 続けたいです。夫婦っていろいろな形があってよいと思います。仲良く旅行をすることは夢また夢ですが、私が強引に誘い出して3カ月に1度くらいは一緒に外食するようになりましたし。彼は渋々文句をいいながら応じていますが、レストランでは楽しそうに話をしてくれることもあります。その程度しか望めなくても、今は自分が楽しめるアクセサリー作りの仕事も順調になので、それで良いと思っています。

あなたの悩みもカサンドラ?

 離婚はせず、夫の特性と向き合って生きていくことを選択して幸せだと話す紀子さん。この体験談を読んで、「もしかしたら、私もカサンドラでは?」と思った方は、 カサンドラ症候群、アスペルガー症候群チェックリストつき『カサンドラ症候群とアスペルガーに関する情報』を読んでみてください。

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