カサンドラたちの夜明け#04

誰も私の苦しみを理解しようとしてくれない

 夫や同居相手などパートナーとの人間関係において、心穏やかな愛を育むことが出来ず、理不尽や不条理な状況に追い込まれ、社会からも理解してもらえないことに苦しむ「カサンドラ症候群」。この問題にフォーカスをあてたシリーズ『カサンドラたちの夜明け』の第4回目は、一見すると理想的な結婚相手である夫との問題を、誰にも理解してもらえなかった女性のお話。カサンドラ症候群が当事者にとって最も辛いことのひとつは「周囲の無理解」です。悩みを友人に伝えても、むしろ夫の味方をされてしまうという辛い状況に追い込まれた妻は、どのような方法で状態を改善していったのでしょうか?

カサンドラ症候群とアスペルガー症候群
カサンドラ症候群は、あらゆる対人関係において起きうるものの、パートナーがアスペルガー症候群である場合に起こることが圧倒的に多いと言われます。カサンドラ症候群とアスペルガーに関する情報は、こちらを参照にしてください。(監修:Dr.ニック、グッドイヤー・ジュンコ)

自分のプレゼンは天下一品。おしゃべりで楽しい夫

  • 小川陽子さん(45歳、仮名)
  • 婚姻期間:4年(同居)
  • 子供の有無:娘1人(3歳)
  • 現在の職業:主婦
  • パートナーの仕事:不動産紹介会社勤務
  • パートナーのアスペルガー症候群検査有無:無

質問:お二人が結婚したきっかけを教えて下さい

 40歳を過ぎていたので、もう結婚は諦めていたのですが、「最後にもう一回だけトライしよう」と思って登録したオンラインサービスで知り合いました。2歳年下の夫は、ハンサムでおしゃべり好きな楽しい人で、私はすぐに恋に落ちました。割と早く結婚話が出て、とんとん拍子に籍を入れることに。当時、私は東京に住んでいましたが、結婚を機に会社を辞めて、今住んでいる静岡県に引っ越しました。

質問:彼の職業は、不動産紹介業とのことですね

 はい。彼にとって、おしゃべりは「職業」なんですよ。自分が説明したいことや、自分の得意分野のことを語らせたら、右に出る人はいないくらい楽しいんです。営業職で成功していて、会社での評価はとても高いんです。ですから、そんな彼との間でコミュニケーションの難しさを抱えるなどとは、結婚当初は考えてもいませんでした。

質問:お付き合いしている間、彼の問題には気づかなかったのでしょうか?

 今考えてみると、ときどき「なんだか話が噛み合わないな」と思うことは結構あったと思います。でも、そんなことは誰と一緒にいたって起こるだろうから、特に注意を払わなかったんです。ただ、顔だって人並み以上だし性格もいいのに、どうして今まで結婚しなかったのかなと不思議に思うことは何度もありました。どんな友達に会わせても「40歳を過ぎてから、こんなにいい男と結婚できるなんて超ラッキーじゃない?」と言われましたし。ところが、いざ結婚してみたら「ああ、これが原因で恋が長続きしなかったんだ」という理由がわかったんです。
 彼は基本的に、自分の話しかしません。私の気持ちを考えたり、私の体調を気遣ってくれることも皆無です。自分のことを「楽しい人」だとプレゼンテーションするのは天下一品ですから、長く一緒にいないと、彼のこうした癖には気づかないと思います。家の中では、自分の話を一方的にして、それが終わると急に寡黙になる。私の話には興味も示さないし、私がどんなに困っていても何のサポートも進んですることはありません。

 例えば、私が妊娠して体調が悪かった時も「そうなんだ。なら寝てれば?」としか言ってくれませんでした。悪阻がひどくて、私が「ニオイが耐えられない」と何度言っても完全に無視して、私の横で牛丼を食べるという無神経さには、呆れてものが言えませんでした。それが原因で私がトイレに駆け込んでも、そんな私を介抱するとか助けることは皆無で、重たい荷物なども持ってくれませんでした。極めつけは早期破水をしたときです。「助けて!」と言ったら「僕にはどうやって助けていいから分からないので、救急車呼ぶね」と言われて。しかも救急車が到着すると私を救急隊員に任せて、彼は病院にも一緒に行ってくれませんでした。妊娠後期はずっと入院していたのですが、そういうことが悲しくて辛くて、病院では泣いてばかりの生活を送りました。

誰も知らない「よい旦那さん」の真の顔

質問:あなたのお友達の反応にも、傷ついたそうですね。

 そうなんです。私は結婚後、東京から静岡に引っ越したのですが、娘を身ごもったのはそれからすぐでした。友達が誰一人いない慣れない土地で、高齢になってからの妊娠生活だったので、不安だし寂しいのに、頼りにしたい夫は私には無関心だったので、精神的にボロボロになりました。

 この辛さを語れるのは、やっぱり東京の友達。そう思ってみんなに連絡したんですが、まともに取り合ってくれないことがほとんどで、もっと辛くなりました。夫は本当に外面がよいので、傍から見たら「よい旦那さん」でしかないんです。ですから、ちょっとでも彼の愚痴を言うと、「陽子、40歳過ぎて結婚して妊娠も出来たのに、そんなこと言ったらバチがあたるよ」と逆に叱られてしまうようなことが続きました。なかには「ワガママすぎるよ、そういう考え」とか、「結婚していることの自慢話に聞こえる」と機嫌を損ねてしまった友達などもいて、自分が不用意に言った言葉で誰かを傷つけてしまったことも悲しくて。そういうことが続いて、誰にも自分の不安を打ち明けられなくなったんです。

質問:そんな中で、なぜ彼がアスペルガー症候群だと思うようになったのですか?

 自治体が行っている母親教室で仲良くなった人が、「それって、カサンドラだと思う」と教えてくれたことがきっかけです。母親教室ではいろいろな人に知り合えたので、当時の私の唯一の心の救いでした。特に、カサンドラ症候群について教えてくれた彼女とは、一生付き合いたいと思えるような友達になれました。

 彼女は二人目の出産でしたが、お互い年齢が近かったこともあって仲良くなったんです。教室の帰りに何度かお茶をするうちに、妊娠中の出来事や、出産後にワンオペになって精神的に辛いことを打ち明けたら、励ましてくれて。ようやく私の訴えに耳を傾けてくれる人が現れてことが嬉しくて、最初に夫のことを打ち明けたときには涙が止まりませんでした。やっぱり理解してくれる友達って大事だなと思います。

 それまで私はカサンドラ症候群という言葉すら知らなかったので、まさに目からウロコでした。彼女が説明してくれたアスペルガーの特徴やカサンドラの症状のすべてが、私たち夫婦に当てはまっていたんです。

 彼女の妹さんがちょうど同じようなことを経験されたそうで、妹さんが通っていた地元の心療内科を紹介してもらえたことも、大きな救いになりました。

「夫は変わらない。変われるのは自分だけ」という気づき

質問:心療内科ではどんなサポートを得ましたか?

 夫の状況や、自分の状況をいろいろ親身に聞いてもらえたことだけでも、随分、気持ちが楽になりました。夫が主な原因ということから、病院では夫にも診断を促せないかと聞かれましたが、それは無理だと答えました。夫に「あなたはアスペルガーだと思う」などと彼に問題があるようなことを伝えて離婚に発展してしまうことが怖いんです。だから、「私が、彼の共感力のなさを受け入れること」を決断しました。

 辛い時はあるけれど、彼とどうやって折り合いをつけていくか、自分が彼の行動に対してどう反応すれば楽になるかを中心に、お医者さんやカウンセラーの方に指導してもらいました。最初は「私が折れればいいんだ」なんて思っていたんですが、専門家の説明を聞き、アスペルガーの人に期待するには難しいことが多すぎて落ち込みました。けれどもカウンセリングを重ねるうちに、「自分が折れれば」という考え方も自分を不幸な気持ちにしてしまうことにも気づきました。

 自分の人生を満足いくものにするには、夫が変わることを期待するよりも、自分が変わるほうがずっと早いと気づいてからは、前向きな気持ちが持てるようになったと思います。

質問:現在、夫との生活には満足していますか?

 夫は「相変わらず」です。彼とは「温かな夫婦の時間」なども、ないものだと割り切っています。ですから満足するとかしないとか、そういう次元で何かを判断することは正直、難しいです。彼は自分のこと以外には気が回らないし、子供の世話を自ら進んでしてくれることも期待できません。自分が興味がないことには見向きもしないし、返事もしてくれないことの方が多い。でも娘のことはそれなりに可愛いようで、私が無理やり連れだせば、家族で休日にどこかに出かけることはたまにはあります。

 彼と心のつながりが希薄なのは明らかですが、浮気をするわけでもないし、お金を家に入れてくれないわけでもないので、過剰な期待はしないようにと自分に言い聞かせています。もちろん時々どうしようもなく寂しい気持ちになって、そんな時には泣いたりしてしまいますが、娘の存在が私を支えてくれている気がします。

質問:彼とは今後も人生を共にして行けそうですか?

 娘が成長した後、この夫と夫婦だけの時間を楽しく過ごせるかと考えると、それは期待できない気がしています。ですから、自分の世界をちゃんと作って、老後は一緒に出掛けられるような自分の仲間を作りたいと思っています。

 彼がいることで人生を辛く感じることと同じくらい、彼がいないと人生が辛くなるのではないかと感じています。こうして出会ったのもご縁だし、私に必要な学びを彼が与えてくれているのかな、と思うようにしています。

あなたの悩みもカサンドラ?

 離婚はせず、夫の特性と向き合って生きていくことを選択して幸せだと話す、陽子さん。この体験談を読んで、「もしかしたら、私もカサンドラでは?」と思った方は、 カサンドラ症候群、アスペルガー症候群チェックリストつき『カサンドラ症候群とアスペルガーに関する情報』を読んでみてください。

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