カサンドラたちの夜明け#01

「絆」を感じられない夫婦関係に苦しむ、女性たち

 「どうして、この人は私の気持ちを察してくれないの?」
 「なぜ、この人は、いつだって自分が優先なの?」
 「どうして、私の具合が悪い時でも気遣ってくれないの?」
 「なぜ、この人は、社会の常識が分からないの?」

 パートナーとの生活において、心穏やかな愛を育むことが出来ず、多くの「どうして?」、「なぜ?」ばかりが募ってしまう……そんな苦しみを抱える女性は少なくありません。こうした状況に至る理由は、もちろん様々ですが、もしかしたらパートナーが抱える発達障害が理由かもしれません。

 新シリーズ『カサンドラたちの夜明け』は、 身近な人間関係において理不尽や不条理な状況に追い込まれ、社会から理解してもらえないことに苦しむ「カサンドラ症候群」にフォーカスをあてた連載です。カサンドラ症候群は、あらゆる対人関係で起きうるものの、アスペルガー症候群のパートナーとの間で起こることが圧倒的に多いと言われます。カサンドラ症候群とアスペルガーに関する情報は、こちらを参照にしてください。

(監修:Dr.ニック、グッドイヤー・ジュンコ)

結婚の陰り、出産後に気づいた夫の異常な行動

  • 大咲ゆりこさん(48歳、仮名)
  • 婚姻期間:19年(離婚)
  • 子供の有無:18歳の息子・15歳の娘
  • 現在の職業:小売店店員
  • パートナーの仕事:会社役員
  • パートナーのアスペルガー症候群検査有無:していない

質問:元夫との出会いを教えてください。どんなきっかけで結婚することになったのですか?

 彼は当時、私が勤めていた会社が取引していた企業の社長でした。何度か仕事でご一緒したのをきっかけに、彼から猛烈なアプローチがあり、短期間のうちに結婚が決まりました。当時はそんなアプローチが嬉しくて天にも昇る気持ちでしたが、今思えば、あの激しいアプローチも、アスペルガー症候群のなせる業だったのかもしれません。

質問:元夫の言動に初めて違和感を覚えたのは、いつですか?

 最初の子供の妊娠が分かる前です。私たちは30歳を過ぎてから結婚したので、すぐに子供が欲しかったんですが、妊娠はしたくても必ず出来るものではないですよね? それなのに彼は毎日のように「今日は妊娠した?」って聞くんです。それは本当に、最初の子供を身ごもるまでの間、ずっと言われ続けました。「あれ、この人、ちょっと変かもしれない」と思ったのは、それがきっかけです。

質問:お子さんが生まれた後は、何か状況は変わりましたか?

 私は産後の肥立ちが悪く、ずっと体調が悪かったんです。でも子供は容赦なく泣くし、おむつもミルクも常に準備しなくてはなりません。必死に頑張っていても、彼は手伝おうとしないので、イライラも募りました。ある時、彼に「私、もう疲れて倒れそう。カラダの痛みも取れなくて死にそうなの」と訴えたんですが、その時、彼が言ったのは「僕もだよ、だって眠れないんだから。仕事も毎日あるし、寝不足だし」でした。

質問:その反応に対し、ゆりこさんはどうしたのですか?

 頭には来ましたよ。でも彼にとっても最初の子供で、二人とも慣れないことばかりだったし、結婚と同時に仕事を辞めてしまった私にとっては、彼が稼いでくれているおかげで家計が成り立っていたわけですから、怒りは心に留めました。「だったら1日だけでも、ゆっくり寝られるように方法を考えようよ」と提案したのですが、彼の返事は、「だったら君は子供部屋のソファーで寝ればいいよ。子供の横で寝れば、起きるときに楽だろう?」でした。息子と私にベッドを譲るわけでもなく、産後の身体的痛みが何も治っていない私にソファーで寝ろと言い、しかも夜の子供の世話を手伝う様子も見せない夫。「離婚」が頭がよぎったのは、その時が最初でした。

それでも結婚生活を続けたのは、子供のため

質問:それでも19年間も結婚生活を続けたのは、なぜですか?

 やっぱり、お金でしょうね。私はキャリア志向ではなかったので、結婚と同時に仕事も辞めましたし、すぐに二人目を妊娠したので子育てに必死で、離婚が頭によぎっても、それを実行に移すことを考える暇がなかったんだと思います。彼は会社を経営しているので、側から見たらから良い旦那さんだと思います。一度、友達にダンナの悪口を言ったら「稼いでもらって何不自由ない生活なのに、文句なんて言ったら罰があたる」と諭されました。だから「自分がワガママなんだ」と思うようになって、何か問題が起きても自分が悪いのかもしれないと、必要以上に思うようになってしまいました。

質問:元夫に「愛された」と思う記憶はありますか?

 それは、もちろんあります。好きで結婚したんですから。でも、だんだん自分は「家政婦」でしかないような思いに苛まれるようになり、彼のニーズを満たすだけの存在になっていったのは確かです。子供が生まれてからは、プレゼントをもらったり、記念日を祝うこともなくなりました。彼が私が必要な時だけ要件を命令されるという感じだったので、子供がいなければ、もっと早くに離婚していたと思います。

質問:元夫はお金を家に入れてくれる以外に、家族に何をしてくれていましたか?

 彼はフットサルのクラブに入っているため、週末はフットサルで子供の面倒は私任せでした。平日は仕事が忙しいことを理由に、子供の運動会や学芸会に来たことも、ほとんどありません。子供たちはそれにすっかり慣れてしまって、物心ついた頃には「パパは忙しくて家にいない人」になっていました。

 それでも一度だけ、娘がまだ1歳だった時に、私を同窓会に行かせてくれたことがありました。珍しく「子供は僕がみるから、楽しんでおいで」と自分から言ってくれて。とても嬉しかったんです。でも、私が家に帰ってきたら、家の中はメチャクチャ。しかも娘がキッチンの堅い床の上で倒れていたんです。心臓が止まるほどビックリしました。彼に「〇〇ちゃんが倒れている!」と言うと、彼は平然と「ああ、寝ちゃったんだよね。起こすのが可愛そうなので、そのままにした」と。もう、この人とはやっていけないと、その時も思いました。

子供の成長と共に、離婚したい気持ちが抑えられなくなって……

質問:ゆりこさんは何回くらい離婚の申し出をしたのですか?

 それとなく「もうやっていく自信がない」ということは、何度も伝えました。その度に、彼に言われ続けたことは「離婚したって、仕事をしてない君はどうやって生きていくんだ?」ということでした。「もうやっていけない」とか「離婚」という文字を言葉にしても、「僕に何か悪いことがあるなら、直すように努力する」的なことを言ってくれたことは一度もありません。私は彼の生活を支えるメイドさんみたいな存在であって、愛される存在でも、大切な妻でもないということは、常に思っていました。

質問:夫婦仲がしっくりいかないことで、お子さんが悩むことはありませんでしたか?

 娘が中学校に入った時に、意を決して父親と自分は「あまりうまくいっていない」と、二人の子供たちに話したんです。年を重ねるほどに、彼の支配的な態度や、常識が欠如するような言動が悪化していったので、もう隠せないと思ったからです。自分の思うようにいかないと、子供にも大声で怒鳴るようになっていたので。冷静に問題を伝えると上の子も、下の子も「気づいていたよ」と。出来る限り平和な家庭が保てるよう、「もうちょっと頑張ってみるね」と二人には伝えました。

質問:なぜ元夫がアスペルガーで、ご自身がカサンドラだと思うようになったんですか?

 アスペルガーと、カサンドラのことを知ったのは、ある本がきっかけです。友人が「大人にも発達障害というものがあり、結婚が上手くいかない理由が発達障害であることが珍しくない」と教えてくれたので、試しに本を買ってみたんです。そうしたら、そこに書いてあることが、私たち夫婦に当てはまりすぎて。その時に私は「自分はカサンドラに違いない」と確信しました。

りこさんが、実際に読んだ本
『カサンドラ症候群 身近な人がアスペルガーだったら』

離婚へ向けて背中を押してくれた子供たち

質問:下のお子さんが18歳になった時に、離婚を決められたそうですが、その決心をする際に一番難しかったのは何でしたか?

 元夫の支配的態度や抑圧的な態度が年々強くなり、子供たちに対しても、自分が気に入らないことを言うと怒鳴り散らすようになっていました。子供たちの方から「もう家にいたくない」と訴えてくるようになり、その都度、元夫には「このままでは家庭が崩壊する」と言い続けました。離婚する1年くらい前には「あなたはアスペルガーだと思う。家族を続けるならば、専門家に相談して一緒に問題に向き合おう」と思い切って伝えたのですが、「いつも文句ばかり言う君こそ障害者。ヒステリーは病気だ」とののしられ、話はそれ以上は進みませんでした。その頃の結婚生活が一番辛かったです。

質問:離婚はスムーズに行きましたか?

 実は離婚の際、私の背中を押してくれたのは子供たちなんです。「お母さん、もう十分頑張ったんだから、お父さんと別れていいよ」と言われたことで、決心がつきました。元夫は離婚にはなかなか応じてくれず、1年以上も話し合いましたが、最後には、私からは慰謝料などを一切請求しないことを条件にし、それを彼が納得してくれました。子供たちはそれぞれ社会人、大学の寮で暮らしており、私は小さなアパートに引っ越してパートで生計を立てています。生活は苦しくなったし、ときどき将来の不安に襲われることもありますが、誰からも支配されず、尊厳を傷つけられない生活は、やはり素晴らしいです。ささやかな幸せに喜びを見出せるように、これからは凛として生きていきたいと思います。

あなたの悩みもカサンドラ?

 離婚することによって自分の第一歩を踏み出した、ゆりこさん。このエピソードを読んで「私もひょっとして、カサンドラ?」と思う方は、 カサンドラ症候群、アスペルガー症候群チェックリストつき『カサンドラ症候群とアスペルガーに関する情報』を合わせてごらんください。

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